べーピング危機:一年後

べーピング危機:一年後

CBDベープオイル・カートリッジに混入した合成カンナビノイドを特定した科学者らが、その「悲惨な毒物学的影響」について警告
CBDベープオイル・カートリッジに混入した合成カンナビノイドを特定した科学者らが、その「悲惨な毒物学的影響」について警告
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べーピング関連肺障害の流行で世間が騒然としてから1年。CBDベープオイル・カートリッジに混入した合成カンナビノイドを特定した科学者らが、その「悲惨な毒物学的影響」について警告しています。

べーピングに関連して新たに登場した怖ろしい肺疾患がニュースを賑わせたのはそう昔のことではありません。COVID-19 の流行に圧倒されたアメリカ人にとっては、それはすでにずいぶん前のことのように思えるかもしれませんが、2019 年の夏は、アメリカ中がべーピング危機問題に取り憑かれたようになっていました。疾病対策センター(CDC)は、突如として起きた死亡や肺障害の原因を、有害な電子タバコと大麻のベープペン・カートリッジの使用によるものだとする警告を発布しました。1

2020年 2月までにアメリカでは、ティーンエージャーや高齢者を含む 68人がこの謎の呼吸器疾患で死亡し、3000人近くが、息切れからひどい吐き気や吐血まで、さまざまな症状で入院しました。CDC は、べーピングに関連した呼吸器不全の原因として、低品質の大麻オイルに加えられる増粘剤、酢酸ビタミンEを特定しました。2

ところが CDC は、COVID-19 の流行が始まると間もなく、ベーピングに関連する症例の追跡をやめてしまい、医学者の関心は感染率の高いコロナウイルスに移りました。コロナウイルスもまた、肺に損傷を与えることで人を死に至らしめます——そしてその症状は、ベーピングが引き起こすものとなかなか区別がつきません。

COVID-19 と EVALICDC は “e-cigarette or vaping-related lung injuries の頭文字をとってそう呼びます)の症状には類似点があり、死に至る機序も共通しています。どちらも重篤な患者では、免疫系の暴走が引き金となって急性呼吸窮迫症候群を起こすのです。医学者はこの、ときに人を死に至らしめる免疫の異常を「サイトカインストーム」と呼びます。

酢酸ビタミンE

貪欲なコロナウイルスがサイトカインストームを引き起こすことがあることを私たちは知っています。では、酢酸ビタミンEとベーピングについて、私たちが実際に知っているのはどんなことでしょうか?

CDC はこう述べています——「酢酸ビタミンEは EVALI の流行と深く関わり合っている。酢酸ビタミンEは FDA と各州の検査ラボが検査したベープ製品にも、CDC が広い範囲の州で検査した患者の肺液にも含まれていた」3

EVALI 患者の中には、脂質性肺炎と診断された人がいます。これは、脂質あるいは油が肺胞嚢に入り込むことで起きる稀な炎症性疾患です。症状は、大抵の場合 細菌、真菌、ウイルスによる感染で起こる、他の種類の肺炎と似ています。

2020年にマウスを使って行われた実験では、EVALI で見られる脂質に関連した肺損傷を再現するように見え、酢酸ビタミンEがベーピング関連肺障害の原因であるという CDC の主張を裏付けました。Leafly による調査報告も、闇市場で販売されるベープカートリッジに含まれる、スキンクリームの成分スクワランその他吸入すべきでない「数々の有毒物」の中から酢酸ビタミンEに焦点を絞りました。4

ところが、『New England Journal of Medicine』に掲載された、メイヨー・クリニックの医師チームによる意見は、酢酸ビタミンE仮説を批判するものでした。べーピング関連肺障害の病理は「不明なところが多く」、「べーピング関連肺障害に関する報告のほとんどには組織病理学的な分析の結果が含まれていない」と彼らは指摘しています。組織病理学的分析は、病変組織または病変細胞を直接顕微鏡で調べて行われます。5

よく調べると、ベーピング関連肺障害の中には、脂質が詰まったというよりも化学やけどのように見える症例がありました。これはつまり、酢酸ビタミンEではない、他の添加物が肺組織に損傷を与えていることを示唆しています。別の医師グループも、『Journal of American Medicine』誌に宛てた手紙の中で、肺に脂質の詰まった免疫細胞が存在する理由は「慎重に解釈しなければならない。なぜならそれは、有害性を示すのではなく単に暴露を示すマーカーである可能性がある」からだと述べています。6

ベープオイルの添加物

Project CBD は数年前から、ベープオイルに加えられる添加物の危険性について警告を鳴らしてきました。プロピレン・グリコールやポリエチレン・グリコールといった希釈剤や(超加工食品産業の必需品である)さまざまな人工調味料は、経口摂取しても安全であるという食品医薬品局(FDA)のお墨付きを得ています。ですが、FDA が認可したこれらの質感調整剤や人工調味料の多くは、加熱して吸入すると有毒なのです。

ロチェスター大学の研究者らが 2018年に行った研究では、ベープオイルや電子タバコによく使われている調味料への暴露は白血球に有害であることがわかりました。中でも最も有害なものの一つは、電子タバコやベープオイル・カートリッジにクリーミーでバターのようなバニラの風味を付けるために使われるジアセチルでした。この化学物質を吸入すると、身体に大きな影響を与えときには死を招くこともある疾患、「ポップコーン肺」を引き起こすことがわかっています。7

エール大学の研究者らによる論文は、人工調味料を組み合わせると、単独の添加物に暴露した場合よりさらに危険であることを示しています。さらにそこにプロピレン・グリコールや酢酸ビタミンEなどの増粘剤や希釈剤が加われば、何が起きてもおかしくありません。こうした不審な化学物質を混ぜ合わせたものが、2019年に起きた EVALI の流行にどの程度関与しているのか、あるいは COVID-19 時代になっても散発的に起こり、CDC がほとんど触れようとしないベーピング関連肺障害の一因となっているのかはわかっていません。8

2019年 11月に発表したスペシャルレポートの中で Project CBD は、CDC に見過ごされた、これらとは別の危険な化合物について注意を喚起しました。Project CBD のチーフ・サイエンス・ライターであるエイドリアン・デヴィット=リーが行った徹底的な文献レビューの結果、「合成カンナビノイド」への暴露が関与している複数の症例報告が見つかっています。合成カンナビノイドは、検知するのが難しく、死につながりかねない、もともとは研究用に作られたものが市場に流出した一群の化合物で、エンドカンナビノイド・システムの働きを阻害し身体に大きな損傷を与えます。すべての症例報告には共通した症状(すりガラス状陰影、血管破裂、 肺に水が溜まることによる酸素欠乏その他)が見られ、CDC によるベーピング関連肺障害の判断基準に合致していました。9

合成カンナビノイド

ミシシッピ大学の研究者らが『Journal of Dietary Supplements』誌に発表した最近の論文でも、闇市場で販売されるベープオイル・カートリッジに合成カンナビノイドが混入していることが確認されています。市場に出回っているヘンプ由来ベープオイル 25 製品の含有物を分析したところ、13 製品にはラベルに表記されたカンナビジオール(CBD)の量の半分以下しか入っておらず、ラベルに表記された量の ±20% の範囲内だったのはわずか3製品でした。計測可能な量の CBD が含まれていない製品も3つありました。10

「消費者の観点から見れば、ラベルの記載が実際の含有量を上回っているということは、製品の内容を正しく表示していないのみならず、そのビジネスの手法が詐欺的であるということを意味する」と著者らは述べています。さらに懸念されるのは、「CBD べーピング製品に合成カンナビノイドが混入している頻度が高いこと」でした。著者らによれば、ミシシッピ州で販売されている CBD ベープ製品の中から無作為に選ばれた 25 製品のうちの4製品に、「悲惨な毒物学的影響を伴う深刻な健康被害を引き起こす危険性のある」合成カンナビノイドが含まれていたのです。

この小規模な調査の結果が、無秩序に広がり規制の枠組みを持たない世界的なベープ市場における、合成カンナビノイド混入の蔓延を示しているかどうかは定かではありません。でも確実に言えることがあります——ベーピング関連肺障害に関連する複数の要因と、現在も続くこの公衆衛生上の問題にどのように対処すべきかについて考えるときには、合成カンナビノイドを慎重に精査するべきです。

Project CBD が 2019年に示唆したように、もしも本当に合成カンナビノイドが EVALI の謎を解く鍵なのだとしたら、なぜ「有害性を示すのではなく単に暴露を示すマーカーである」酢酸ビタミンEの名が繰り返し登場するのでしょうか? それは、偽物の大麻オイルを作る不埒者にとっては、まずプロピレン・グリコールのような希釈剤をつかって製造を開始し、非常に強力な合成カンナビノイドをほんの微量加え、それから酢酸ビタミンEを加えて液体の粘度をベープペンに適したものに高めるという方法が安価だからです。

野放しの市場

べーピングは、簡便で目立たず、効果の発現も早く、用量の調節もしやすい大麻摂取方法です。幸い、嗜好大麻の合法州に住んでいる人には、質の高いペーピングのアイテムも揃っています。ただし、CBD しか合法でなく、全草から抽出された大麻オイルが正規の販売経路で手に入らない州では選択肢は限られます。

悪質なベープ製品は、規制監督されていない CBD 製品や大麻オイルの市場で急増しており、酢酸ビタミンEを至るところで見かけます。酢酸ビタミンEに加えて、非合法な CBD ベープカートリッジには通常、加熱吸入すると安全でないキャリアオイル(MCT、グリセリンまたはプロピレン・グリコールであることが多い)に溶解させた CBD アイソレートが含まれています。このような製品はクリックひとつで、またガソリンスタンドやヘッドショップその他で購入が可能です。そうした店舗では電子タバコも販売されていますが、それらにもまた、認可されていない CBD や大麻オイルのブレンドに含まれているのと同じ調味料や添加物の多くが使用されています。

大麻は昔から喫煙されてきましたが、有害なベープオイルの使用に関連する異常な、ときには死につながる症状を引き起こすことはありませんでした。エール大学の公衆衛生大学院が最近行った調査によれば、ベーピングに関連する肺疾患の患者数は、大麻を合法化した州の方がはるかに少ないのです。EVALI の発生率が最も高い5つの州の住民は、州政府の認可した製造業者が作り検査ラボでチェックされたベープオイル製品が手に入りません。11

結論:合法できちんと規制監督された大麻市場には長所も短所もありますが、それが危険なベープオイル・カートリッジの使用を減少させることは事実です。



Martin A. Lee は Project CBD のディレクターであり、『Smoke Signals: A Social History of Marijuana – Medical, Recreational and Scientific』を含む数冊の著書がある。

当サイトの著作権は Project CBD にあります。許可なく転載を禁じます。


脚注

  1. Centers for Disease Control and Prevention, “Sounding the Alarm: The Public Health Threat of E-Cigarettes,” Sept. 25, 20019
  2. Centers for Disease Control and Prevention, “Outbreak of Lung Injury Associated with the Use of E-Cigarette, or Vaping, Products,” Feb. 25, 2020.
  3. Centers for Disease Control and Prevention, “Outbreak of Lung Injury Associated with the Use of E-Cigarette, or Vaping, Products,” Feb. 25, 2020.
  4. David Downs, “VAPI anniversary: Killer chemicals still on the streets,” Leafly, Aug. 4, 2020.
  5. Yasmeen M Butt, MD, et al, “Pathology of Vaping-Associated Lung Injury,” New England Journal of Medicine, Oct. 31, 2019.
  6. Kulothungan Gunasekaran, et al “Lipid-Laden Macrophages in Cannabinoid Oil Vaping Associated Lung Injury,” Letter to the editor, The American Journal of Medicine, https://doi.org/10.1016/j.amjmed.2019.11.025
  7. Muthumalage, Thivanka, et al. “Inflammatory and Oxidative Responses Induced by Exposure to Commonly Used e-Cigarette Flavoring Chemicals and Flavored e-Liquids without Nicotine.” Frontiers in Physiology, 11 Jan. 2018, www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphys.2017.01130/full.
  8. Eythropel, Hanno C, et al. “Formation of Flavorant–Propylene Glycol Adducts With Novel Toxicological Properties in Chemically Unstable E-Cigarette Liquids.” Nicotine and Tobacco Research. 2019 Aug 19;21(9):1248-1258. doi: 10.1093/ntr/nty192.
  9. Adrian Devitt-Lee, “Under the Radar: Synthetic Cannabinoids and Vaping Related Lung Injuries,” published online Nov. 11, 2019, https://www.projectcbd.org/reports/synthetic-cannabinoids/intro.
  10. Bill J. Gurley, et al, “Content versus Label Claims in Cannabidiol (CBD)-Containing Products Obtained from Commercial Outlets in the State of Mississippi,” Journal of Dietary Supplements, published online 20 May 2020, https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/19390211.2020.1766634.
  11. Colin Poitras, Yale School of Medicine, “Rates of E-cigarette and Marijuana Use Not Associated with Larger Outbreaks of Vaping-Related Lung Injuries, YSPH Study Finds, Aug. 25, 2020.

 

Revision date: 
9月 15, 2020

本サイトの内容は、アメリカの非営利団体 Project CBD の記事を翻訳したものです。科学的エビデンスに基づいた情報の提供が目的であり、日本国内における違法行為を推奨するものではありません。 サイトのポリシーについてはこちらをご覧ください。

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