ECS 研究に役立つ珍しい生き物たち

ECS 研究に役立つ珍しい生き物たち

ハイになったロブスターやゼブラフィッシュ、CBD嫌いの毛虫、カンナビノイドと作用する受容体の胚発育初期における役割について
ハイになったロブスターやゼブラフィッシュ、CBD嫌いの毛虫、カンナビノイドと作用する受容体の胚発育初期における役割について

科学者は、エンドカンナビノイド・システム(内因性カンナビノイド系・ECS)の研究のためにさまざまな手法を用います。その一つが動物実験です。何しろ ECS は、原生物(単細胞生物)と昆虫を除いて、動物界のほぼすべての生き物に存在するわけですから1ECS の機能に関する動物実験のほとんどにはマウスが使われますが、猫2 や犬3 の受容体とカンナビノイドの関係も研究されており、これは人間とペット両方の役に立つ可能性があります。珍しいところでは、ウニやホヤ4 、ゼブラフィッシュ5 やキンカチョウも6 が使われることもあります。

生物医学研究でマウスやラットを使う利点の一つは、これまでに、うつ病から糖尿病まで、人間が罹患する無数の疾患を行動的・生理的に模擬した動物モデルが開発されているということです。マウスモデルを使うと、人間の疾患の根本原因を研究し、たとえばエンドカンナビノイド・システムを標的とした治療法をテストしたり比較したりするのが容易になります。

ただし哺乳類を使った研究には欠点や限界もあるため、さまざまな分野の研究者は、マウス以外の動物モデルを使う可能性も探り続けています。カンナビノイド研究の分野で近年発表された論文では、ゼブラフィッシュやロブスター、さらに面白いところでは、CB1 および CB2カンナビノイド受容体を持たないスズメガの幼虫などが使われています。

ゼブラフィッシュ

体に縦に細い白と黒の縞模様が走る東南アジア原産の小型淡水魚、ゼブラフィッシュは、1980年代以降、人間の健康に関する研究、とりわけ新薬と環境汚染物質の検査に重要なツールとして役立っています。この小さな魚は成長が速く、繁殖が旺盛で飼育も容易であり、かつ重要な臓器、組織、遺伝子が人間と共通しています7 。現在、毒物学、薬理学、行動神経科学の分野では、哺乳類以外の動物では最も一般的に使われている動物モデルであり89 そこにはサイケデリックス1011 とカンナビノイドの研究も含まれています。

最近発表された、ブラジルとイギリスの研究チームの論文は、ゼブラフィッシュのエンドカンナビノイド・システムと、大麻が人間に与える影響に関する研究にゼブラフィッシュが役立つ可能性について、現在分かっていることを総括しています12 。2022年 2月に『Laboratory Animal Research』に発表されたこの論文は、カンナビノイド研究においてゼブラフィッシュモデルを使うことにはさまざまな利点があると結論しています。たとえば人体組織との共通点の多さ、国際倫理規則に準じたインビボ(生きた動物を使っての)試験の必要性を低減させる胚形成期、より短期間・低コストで研究を行えることなどが含まれます。

さらに、この分野でのゼブラフィッシュの使われ方に関する最近の論文が二つあります。一つは『Pharmaceuticals』2021年 11月号にイタリアの研究チームが発表したもので、フルスペクトラムの大麻抽出物はゼブラフィッシュの幼生に対して有毒性がなく、胚の発生と生存には影響せず、高用量では胚の移動運動性を高めることがわかりました13

『Developmental Neuroscience』誌に先月掲載されたもう一つの論文では、アルバータ大学の研究者らが、人間の胎児の成長における最初の2 〜 10週間にほぼ相当するゼブラフィッシュの胚発育期間における、内因性カンナビノイドが結合する6種類の主要な受容体——CB1CB2TRPV1TRPA1ATRPA1BGPR55——の発現を観察しています。「この研究の目的は、胎児の成長の初期において、カンナビノイドとカンナビノイドが作用する受容体が果たす役割についての今後の研究の礎となることである」と著者らは述べています。

ロブスター

カリフォルニア州サンディエゴの権威ある研究所、スクリプス研究所による興味深い論文をご紹介しましょう。「ロブスターはシナプスの生理学の実験では昔から使われているにもかかわらず、行動薬理学ではこれまで無視されてきた」と著者らは述べています。ではどこから始めればよいのでしょうか? まずは、あるメーン州のレストランのオーナーが 2018年に、大麻の煙がロブスターの苦痛を和らげると主張して有名になった一件を検証してみましょう。メーン州ポートランドの『Press Herald』紙に 2021年 6月に掲載された記事は、カリフォルニア州立大学サンディエゴ校の研究者が行ったテストについて報じています。彼らはまず、ロブスターが空中で行うえら呼吸によって有意な量の THC を吸入するかどうかを判定し、次に、それが検知可能な行動の変化、特に、痛みやストレスの軽減を示すような行動の変化を引き起こすかどうかを測定しました。

するとどうでしょう。『Pharmacology Biochemistry and Behavior』誌に 2021年 8月に掲載された論文14 によれば、電子ベープカートリッジで気化された THC にロブスターを露出させると、検査したロブスターの細胞のすべてから、用量依存的に THC が検出されました。また 30分後にはロブスターの自発運動が減少しました。ただし、THC に 60分間露出させた後にロブスターの体を一部ぬるいお湯または熱いお湯に浸けた時の反応をテストしたところ、違いはほとんどありませんでした。つまり、大麻への露出がロブスターの痛みを有意にやわらげるという主張は裏付けられていません。

スズメガの幼虫

最後にご紹介する論文は『Journal of Visualized Experiments』誌に昨年掲載されたもので、カンナビノイドの基礎研究の新しい昆虫モデルとしてスズメガの幼虫を使っています。昆虫にはカンナビノイド受容体がないことを考えると非常に興味深い論文です。15

著者らはまず、この大きなガの幼虫には CB1 および CB2 受容体はないものの、カンナビノイド、中でもいわゆるカンナビノイド受容体以外にもさまざまな受容体に結合することがわかっているCBD と作用する他の受容体が存在することを指摘し、「スズメガの幼虫を使ったモデルは、カンナビノイドがカンナビノイド受容体に依らない方法でどのような薬理的役割を果たすかを理解するための有益な手段である」と述べています。

同じ研究チームは以前にも、『Nature Scientific Reports』誌に発表した論文16 の中で、タバコやトマトにとって非常に有害な害虫とされるスズメガの幼虫が、CBDの含有量が高い大麻草よりも含有量が低い大麻草を好むことを示し、大麻草がカンナビノイドを産生する理由の少なくとも一つは草食昆虫から身を護るためであるという仮説を裏付けています。

昨年発表された論文は、スズメガの幼虫を使った今後の CBD 研究のプロトコルを提案しています。「生活環が比較的短いため、複数世代の均質集団におけるカンナビノイドの影響を研究することができ、そのデータを使って、より高度な哺乳類モデル生物を使った実験デザインの妥当性を確認できる」と著者らは述べています。

 


Nate Seltenrich は、サンフランシスコのベイエリアに住む科学ジャーナリスト。環境問題、神経科学、薬理学を含む幅広いテーマについて執筆している。

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参照文献

 

Revision date: 
3月 14, 2022

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