内因性カンナビノイド
発見年表

内因性カンナビノイド
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25年間にわたる画期的な研究の歴史についてお話しします。
25年間にわたる画期的な研究の歴史についてお話しします。

はじめに:植物という教師

周囲の環境に敏感であった大昔の人々は、人間の意識を変容させる一部の植物やキノコのことを「教師」と呼んでいました。では大麻草は人間に何を教えてくれたのでしょうか?

人間が文字を発明する以前から、大麻草はさまざまな文化のシャーマンたちに伝わる伝統の中で大きな存在であり、大麻草のあらゆる部位が使われていました。茎からは縄や布を作る繊維が採れましたし、タンパク質や必須脂肪酸を豊富に含む種子は食物として利用され、その根や樹脂を多く含む花穂は、医療用として、また各種の儀式のために使われていたのです。

大麻草がこのように幅広く人々を魅了し、またそれが延々と続いてきた理由は何なのでしょうか? 大麻愛好者が好む穏やかな多幸感を引き起こす原因となる向精神成分を特定しようという科学的な試みは、19世紀に始まりました。ところが大麻に含まれる成分は複雑かつ脂溶性であるために、その精査と解析には非常に洗練された技術が必要でした。

現代の大麻研究に重要な転換点が訪れたのは、1964年、イスラエルの科学者、ラファエル・ミシューラム博士とイェヒエル・ガオニ博士によって、ハイを引き起こす成分であるテトラヒドロカンナビノール(THC)が単離されたときのことでした。ミシューラム博士はまた、THC 以外のいくつか成分の分子構造を明らかにしました。その中には、非常に興味深く、精神作用のないカンナビジオール(CBD)も含まれていました。彼はこれらの植物成分を「カンナビノイド」と名付け、大麻草を「薬理学的な宝庫」と呼びました。

マリファナがなぜ精神作用を引き起こすのかを理解しようとしていた科学者たちの関心は、カンナビノイド薬理学の女王とも言える THC に集中しました。人間がハイになったり、空腹感を感じたり、落ち着いたり、人生の試練に少しだけ耐えやすくなったりするのは、脳内で何が起こっているからなのか? THC にフォーカスした動物実験の結果が、分子レベルでの THC の作用機序研究の土台となりました。けれども、大麻草という「教師」に導かれて、科学史上最も重要なものの一つと言える一連の発見に科学者たちが辿り着くまでには、それから四半世紀を必要としました。カンナビノイドによって活性化され、全身を保護する身体機能調節システムが体内に存在すること、またその仕組みがわかったのです。

内因性カンナビノイド発見年表

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Part 1: カノニカル・エンドカンナビノイド・システム

1988: CB1受容体の発見

重要なブレイクスルーが起きたのは 1988年でした。セントルイス大学医学部の研究者が、ラットの脳に、THC によって活性化される受容体(細胞壁にある特殊なタンパク質分子)があることを明らかにしたのです。アリン・ハウレット(Allyn Howlett)教授と彼女が指導教授であった大学院生ウィリアム・デヴェイン(William Devane)が発見し、2年後にそのクローンを作ったこの受容体は「CB1」と名付けられ、哺乳動物の脳において、他のどんなGタンパク質共役受容体(GPCR)よりも多数出現していることがわかりました。

アメリカで認可されている医薬品の半数近くは、GPCR を標的としています。GPCR は、数百のアミノ酸が連なって細胞膜を7回貫通する、という基本的タンパク質構造を共有する、人体内の 800 種類以上の受容体からなるスーパーファミリーを形成しています。CB1 受容体は哺乳動物の脳と中枢神経系に最も集中していますが、その後の研究で、それよりは少ないものの、胃腸、皮膚、それにさまざまな内臓器官にも発現していることがわかっています。脊髄を持つ動物のすべては(それどころか、もっと原始的なホヤさえ)CB1 受容体を持っています。CB1 による信号伝達は、身体のストレス反応や痛みの感じ方を含め、さまざまな生理的過程の調節に欠かせないものであることがその後明らかになっています。

CB1 受容体の発見は、医療科学のほとんどすべての分野に大きな影響を与えることになりました。これによって、人間の体内に先天的に備わっているカンナビノイド・システムの研究の堰が切られたのです。人間にはなぜ、THC をはじめとする植物性カンナビノイドに反応できる受容体が存在するのか? 科学者たちは、人体内に、CB1 受容体を通して信号を伝達する内因性の THC 様化合物 — いわば「体内大麻」とも呼べるものがあるに違いない、と考えました。こうして CB1 受容体を活性化する体内の物質探しが始まったのです。

1992年:アナンダミドの発見

そこに登場したのが N-アラキドノイルエタノールアミドでした。科学者らが最初に特定した、内因性カンナビノイドという神経伝達物質(神経細胞が他の神経細胞に信号を送るのに使われる化学物質)です。1992年、エルサレムにあるヘブライ大学の3人の研究者 — ラファエル・ミシューラム、ウィリアム・デヴェイン、ルミール・ハヌス(Lumir Hanus)— が、ブタの脳組織から、CB1 受容体と結合する脂質神経伝達物質を単離したのです。3人はこれを「アナンダミド」と名付けました。アナンダとは至福を意味するサンスクリット語で、この物質が気分を変容させる作用を示唆しています。

アナンダミドと THC は分子構造的には似ていませんが、CB1 受容体との結合の仕方は似ており、いわば錠に鍵を差し込むような形です。内因性カンナビノイドであるアナンダミドと植物性カンナビノイドである THC はともに、CB1 受容体を活性化させるシグナル伝達分子(リガンド)であり、食欲、気分の変動、グルコース代謝、疼痛知覚、さらには妊孕性をも含む、驚くほど多様な生理的過程を調節している細胞の内部で一連の変化を起こします。排卵にはアナンダミドが高濃度で存在していることが必要であり、妊娠中に体内でアナンダミドの量が変動すると胎児の発達に影響を及ぼす可能性があります。

細胞は、ストレスを感じる出来事の渦中にあって身体が平衡を保つ必要が生じると、「オンデマンド」でアナンダミドを産生します。その後の研究で、運動は体内のアナンダミド量を増加させ、その結果「ランナーズ・ハイ」が起きるということがわかっています。アナンダミドは、CB1 受容体と結合することによってニューロンを保護し、成熟した哺乳動物におけるニューロン新生(脳細胞が新しく生成されること)を促します。神経系を持つすべての動物は体内でアナンダミドを産生します。

1993年:CB2 受容体の発見

科学者たちが2種類目のカンナビノイド受容体「CB2」を発見しました。これは、免疫系全体、末梢神経系、代謝細胞、さらに多数の内臓器官に発現しています。1993年、『Nature』誌上で発表されたこの発見は、カンナビノイドによる信号伝達がどのように炎症を調節し、なぜ医療大麻がさまざまな自己免疫性疾患の治療に役立つのか、その解明の手掛かりとなりました。CB2 受容体による信号伝達の異常は、メタボリック症候群、末梢性ニューロパシー、インスリン抵抗性、肝臓疾患、その他の炎症性疾患に関係しています。

CB2 受容体は、脳の免疫機能を司る小グリア細胞と脳星状細胞を含むすべての免疫細胞に発現していますが、中枢神経系の CB2 受容体は CB1 受容体よりもずっと少ないのが普通です。ただし、脳に損傷を受けたり、アルツハイマー病や多発性硬化症など神経変性疾患を発症すると、CB2 の数は大幅に増加します。

THC はいずれのカンナビノイド受容体も活性化します。ただし、THCCB2 受容体と結合しても、いわゆる大麻による精神作用は起きません — 脳には CB2 受容体があまりないからです。大麻がハイを引き起こすのは、THC が中枢神経系に多数ある CB1 と結合するからなのです。そのため研究者らは、CB1 受容体とは結合せず CB2 受容体とだけ結合し、したがってハイを引き起こさずに病気を治療する薬の開発を目指しました。ところが、CB1 受容体と結合する内因性カンナビノイドであるアナンダミドは、実は CB2 受容体にはほとんど結合しません。ということは、アナンダミドとは別の天然化合物 — 人体が産生して CB2 受容体と結合する内因性のリガンドがあるはずでした。

1995年:2-AG の発見

2-アラキドノイルエタノールアミド(略して 2-AG)は、1995年、ミシューラム博士らが犬の腸の細胞から特定し、同時に日本の研究者らによっても発見されました。アナンダミドと比べて 2-AG はさらに強力であり、数もより多く、身体中に発現しています。人間の脳内の 2-AG の濃度はアナンダミドの 170倍あり、CB1 受容体と CB2 受容体の両方に効率よく結合します。

アナンダミドと 2-AG はどちらも脂質神経伝達物質で、脳と身体の全体に信号を伝達し、外界の環境が次から次へと絶え間なく変化する中で体内のホメオスタシスを維持します。2-AGCB1 受容体と CB2 受容体の主たる内因性リガンドとして、免疫機能の調節に中心的な役割を果たしています。2-AG は炎症性サイトカインの産生を減少させ、免疫細胞の過活動を抑制します。頭部損傷や脳卒中の後には 2-AG 量が急増します。

アナンダミドと同様に 2-AG は、精神面、肉体面の幅広い機能の調節に関与しています。アナンダミドと 2-AG は色々な意味で似ており、補完し合うものではありますが、その機能にはある違いがあります。どちらも酸化的損傷から細胞を護りますし、どちらもストレスに適応しますが、そのやり方が違うのです。2つを産生し、非活性化させる代謝酵素もそれぞれ違います。

1997年:代謝酵素 FAAHMAGL の発見

内因性カンナビノイドは、さまざまな生合成酵素と異化酵素によって産生・分解されます。こうした代謝酵素によって、内因性カンナビノイドは必要なときに産生され、その役割を終えると分解されるのです。アナンダミドは FAAH(脂肪酸アミドヒドロラーゼ)によって分解され、2-AG は主に MAGL(モノアシルグリセロールリパーゼ)によって非活性化されます。FAAH の分子構造は 1996年、スクリプス研究所のベン・クラヴァット(Ben Cravatt)によって明らかにされ、その翌年にはイタリアの研究者が、2-AG の主要な分解酵素が MAGL であることを突き止めました。

代謝酵素は、体内のアナンダミドと 2-AG の量をコントロールすることでエンドカンナビノイド・システムの活性を調節します。アナンダミドと 2-AG はあっという間に分解されるため、FAAH または MAGL を抑制することで酵素代謝の働きを阻害すれば、これら内因性カンナビノイドの体内量を増加させ、カンナビノイド受容体による信号伝達が行われる時間が延長されて、神経保護作用が発揮されるのです。FAAHMAGL をコーディングする遺伝子の多様性は健康にさまざまな影響を与え、どちらの酵素が多すぎてもエンドカンナビノイド・トーンが消耗して、いわゆる「身体が弱い」という状態になります。

FAAHMAGL のクローンに成功したのは、カンナビノイド科学が動き出すきっかけとなった CB1 受容体の発見という一大事から 10年後のことです。2種類のカンナビノイド受容体と、アナンダミド、2-AG、そしてそれらの生合成酵素と分解酵素 — それらで構成されるのが「正統な」(カノニカルな)エンドカンナビノイド・システムであり、それが人間の生物学的機能のほとんどを調節しています。エンドカンナビノイド・システムは、常に変化する外界からのインプットやストレスの存在に負けずに体内を健康かつ安定した状態に保つために、極めて重要な役割を果たしているのです。これから先、エンドカンナビノイド・システムに関しては、新たな研究によって理解が深まっていくことでしょう。

Part 2:ニューロンの森

1998年:アントラージュ効果の発見

「アントラージュ効果」という言葉が最初に使われたのは、1998年 7月に発表された S. Ben-Shabat 博士らによる論文です。これは『European Journal of Pharmacology』誌に掲載されたもので、2-AG と「内因性カンナビノイドの作用の分子調節のための新経路」にフォーカスしていました。論文によれば、CB1 および CB2 受容体に対する 2-AG の結合親和性は、厳密に言うといわゆるカノニカル・エンドカンナビノイド・システムには含まれない、それ以外の内因性脂質化合物の存在によって高められました。同年、同じ学術誌に掲載された別の論文で、「『アントラージュ(取り巻き)』化合物がアナンダミドと 2-AG の作用に与える影響」が論じられました。

エンドカンナビノイド・システムが持つ、総合的かつ相互作用的な性格を示すために使われたこの言葉はやがて、大麻草の複雑な化学組成を指すようになりました。内因性カンナビノイドがバラバラに働くのではないのと同様に、植物性カンナビノイドもバラバラでは働きません。THCCBD の効果は、その品種に含まれる何十種類ものテルペン、フラボノイド、そしてマイナーカンナビノイドの影響を受けるのです。これらの化合物にはそれぞれ固有の医療効果がありますが、これらが組み合わさるとアントラージュ(相乗)効果を発揮し、大麻草全草としての医療効果は、一つ一つの成分の効果を足し合わせたよりも大きくなるのです。

アントラージュ効果という概念は、暗黙のうちに、製薬会社や政府機関が良しとする単一分子の医薬品ばかりが重視されることに疑問を投げかけました。と同時に、2種類の受容体、そのリガンドとそれに関連する酵素からなるカノニカル・エンドカンナビノイド・システムよりも、さらに大きな枠組みが存在することを示したのです。内因性カンナビノイドとそれ以外の脂質性シグナル分子の間に起きる相互作用に光を当てることで、急成長するカンナビノイド科学という学問分野の先駆者たちは、それまでの概念をさらに押し進め、人間に関する生物学的・生理学的理解を新たな高みに押し上げる扉を開いたのでした。

1999年:TRP イオンチャンネルの発見

科学者たちは、エンドカンナビノイド・システムについてさまざまな角度から精査し、調節するための手段を開発していきます。たとえば、合成「アンタゴニスト(拮抗薬)」を使って CB1 受容体の働きを阻害することによって、アナンダミドの作用の一部は受容体とは無関係であることがわかりました。1999年、ヨーロッパの研究者チームが『Nature』誌に発表した研究によれば、アナンダミドの持つ血管拡張作用は、アナンダミドが TRPV1 というバニロイド受容体に働きかけることによって発揮されます。その後の研究で、2-AG もまた、中核体温や炎症性疼痛を司る TRPV1 受容体に作用することがわかっています。

同様に、CBDTRV1 と直接、ただし錠に鍵を差し込むのとは違ったやり方で結合します。TRPV1 は、Transient Receptor Potential、別名 TRP 受容体と呼ばれるイオンチャンネルが形成する大きなファミリーの一員であり、熱、光、音、疼痛、物理的圧力、その他基本的な内臓感覚に反応する細胞のセンサーとして機能します。TRP チャンネルのいくつかは、内因性カンナビノイドや、CBDCBDATHCTHCATHCVCBDCBDCBN を含む植物性カンナビノイドによって調節されます。

TRP 受容体を介して作用する薬草は他にもたくさんあります。たとえば唐辛子に含まれるカプサイシンも TRPV1 受容体に結合します。マスタードオイルその他、刺激の強い香辛料は TRPA1 を活性化しますし、Tメンソールやペパーミントの清涼感を感じるのは RPM8 のせいです。アナンダミドが PRM8 の作用を阻害し TRPV1 を刺激するという発見は、内因性カンナビノイドには CB1CB2 受容体に限らず、より幅広い分子標的を持っていることの明らかな証拠です。

2001年:逆行性シグナルの発見

2001年、3つの研究チームが、内因性カンナビノイドは「逆行性シグナル伝達」と言われる特殊な形で細胞内情報伝達を行うことを示す論文を発表しました。他の神経伝達物質は通常、シナプス前細胞からシナプス後細胞に向かって一方通行で伝わりますが、アナンダミドと 2-AG はともに、それとは逆の方向、つまりシナプス後細胞からシナプス前細胞に送られます。そのため内因性カンナビノイドは「逆行性伝達物質」と呼ばれます。内因性カンナビノイドは、他の神経伝達物質が送り出されるスピードを管理するのに重要な役割を果たします。

過剰な励起は細胞を傷めたり破壊したりします。脳の主な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸が急増すると、それに反応してシナプシス後細胞が分泌した内因性カンナビノイドが、シナプスを飛び越えて逆向きに伝わり、グルタミン酸を産生しているシナプス前細胞のカンナビノイド受容体と結合します。CB1 受容体はシナプス前細胞に、グルタミン酸の量を減らすよう指示します。前頭葉、へんとう体、視床下部における逆行性シグナル伝達は、ストレス反応を司る「HPA軸」の刺激過剰を緩和します。内因性カンナビノイドはまた、主要な抑制性神経伝達物質である GABA が関与するシナプス活性を抑制することで「脱抑制」(励起を促進)することもできます。要するに、逆行性シグナル伝達という仕組みは、動的で双方向的なフィードバックループとして機能し、過剰な生理活動にブレーキをかけることでシナプス伝達の微調整を行うのです。

免疫系がウイルスやその他の病原体から私たちを護るのと同様に、逆行性伝達物質である内因性カンナビノイドは、過剰な刺激、炎症、トラウマから脳を護ります。2001年以前には、逆行性シグナル伝達が起きるのは、胎児の脳と中枢神経系発達の過程だけであると考えられていました。その後の研究で、内因性カンナビノイドは胎児および成人におけるニューロン新生(脳内の新しいニューロンの生成)のほか、幹細胞の移動をも司っていることがわかっています。

2004年:エンドカンナビノイド欠乏

神経学者であると同時にカンナビノイド研究者でもあるイーサン・ルッソ(Ethan Russo)博士によって 2004年に紹介されたのが「病的なエンドカンナビノイド欠乏症」という概念です。いくつかの疾患の根本的な原因は、内因性カンナビノイドの働きが衰えることなのではないかという仮説を立てたのです。ルッソ博士が具体的に挙げたのは、偏頭痛、過敏性腸症候群、線維筋痛症、うつ病という4つの疾患で、これらの症状は、カンナビノイドが不足している患者においてはしばしば併発します。その後の研究によって、内因性カンナビノイドの不足と、てんかん、PTSD、自閉症、アルコール依存症、その他の神経変性疾患を含むさまざまな異常とが関連付けられ、博士の仮説が裏付けられました。

エンドカンナビノイド・システムが機能しなくなる原因にはいくつかあります。遺伝的なものには、カンナビノイド受容体と内因性カンナビノイドの量を司る代謝酵素をコードする、アミノ酸配列の多型性あるいは突然変異が特定されています。特定の遺伝的変異体が健康転帰に影響したり、特定の疾患に罹りやすくさせる場合があることを示唆する十分な証拠もあります。

貧しい食生活、運動不足、質の悪い睡眠、薬物乱用、人種差別、貧困といった後成的な要素もまた非常に重要であり、慢性ストレスにはむしろより大きく影響します。さまざまな疾患に関する重要な危険因子である慢性ストレスは、エンドカンナビノイド・トーンを枯渇させ、炎症、高血圧、コルチゾール値の上昇、ホルモンの不均衡、血糖値の上昇、認識機能障害、さらには病気に罹りやすくなるなどの結果を招きます。医療大麻や、カンナビノイド受容体によるシグナル伝達を増進するホリスティックな療法が、エンドカンナビノイド欠乏症の治療法となり得ると考えるのは納得できます。

Part 3:奥の奥で

2005年:PPAR(核内受容体)

研究により、内因性カンナビノイドと植物性カンナビノイドが持つ治療効果の中で、CB1 受容体と CB2 受容体のいずれも介さないものが次々と発見されていきました。たとえば 2005年に『Life Science』誌に掲載された記事では、カンナビノイドが、細胞核の表面にある「PPARγ」と結合するということが初めて報告されました。

PPARγ は、遺伝子発現、脂質代謝、エネルギー貯蔵を司る脂質感受性ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体ファミリーの一員です。アナンダミドと 2-AG はどちらも PPARγ を活性化しますし、それは CBD も同様です。基礎研究によれば、PPARγ の活性化は、脳内の アミロイド β プラークの蓄積(認知症に関連)を減少させ、インスリン抵抗性その他糖尿病合併症の発症を防ぎ、またカンナビノイドの持つ抗腫瘍作用にも関与しています。

それにしても、アナンダミドと 2-AG、さらに言えば CBD は、いったいどうやって細胞内に入るのでしょうか? これら脂性の化合物はどうやって、水に満たされた細胞内を動けるのでしょうか? どうやって核に辿り着き、特定の遺伝子の転写を始めるあるいは防ぐ DNA の「プロモーター」領域に付着する PPAR 受容体を活性化させるのでしょうか?

2009年:脂肪酸結合タンパク質の発見

2009年、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の研究者らによって、内因性カンナビノイドの移動に関する謎解きに大きな進展がありました。水に満たされた細胞内でアナンダミドを輸送する、脂肪酸結合タンパク質(Fatty Acid Binding Protein: FABP)が特定されたのです。これらの輸送分子はまた、2-AG やその他の脂質化合物も細胞の奥へと運びます。

カンナビノイド受容体を介して信号を伝達し終えると、アナンダミドと 2-AGFABP 輸送分子に付着して細胞膜の脂質二重層を通過し、点々と細胞小器官が浮かぶ大海原に乗り出します。FABP は アナンダミドと 2-AG を核に案内して PPAR を活性化させたり、細胞内の他の場所に運んだりし、アナンダミドと 2-AG は最終的にそこで非活性化され、分解されて代謝産物となります

ストーニーブルック校の研究者らはその後、この FABP が、やはり水に溶けにくい CBDTHC の輸送分子としても機能することを突き止めました。CBDTHC がこの脂質輸送分子に乗り込むと、それによって内因性カンナビノイドが輸送分子から押しのけられ、細胞内の移動が遅れます。その結果、アナンダミドと 2-AG が細胞の表面にある時間が通常より長くなり、カンナビノイド受容体によるシグナル伝達が起きる時間が延長されます。つまり、CBDTHC は、アナンダミドと 2-AG の再取り込みを阻害することでその非活性化を遅らせるのです。このことは、とりわけ CBD が、実際に CB1 および CB2 受容体に直接結合せずにエンドカンナビノイド・トーンを改善させる方法の一つかもしれません。

2012年:ミトコンドリア

2012年にはフランスの科学者が、細胞内でエネルギーを産生する小器官、ミトコンドリアの膜に CB1 受容体があることを報告しました。この発見により、エンドカンナビノイド・システムが、細胞の機能に欠かせないミトコンドリアの活動を調節する仕組みの解明に手掛かりが与えられました。エネルギー恒常性の維持、神経伝達物質の分泌、酸化ストレスを含む、ミトコンドリアが関与する主要な生物学的経路は、内因性及び植物性カンナビノイドによって調節されるのです。

酸化ストレスは、ミトコンドリアの活動から自然に発生する副産物ですが、あまりにも高い酸化ストレスレベルは、細胞内で何か異常が起こっているというしるしです。酸化ストレスを効果的に中和させ、フリーラジカルによるダメージを軽減させることにより、カンナビノイドは、老化を遅らせることからがんに関連する DNA 損傷のリスクを低減させることまで、幅広い治療効果を発揮します。『Philosophical Transactions of the Royal Society』(ロンドン)に発表された論文にあるように、「ミトコンドリア活性を調節するカンナビノイドは、分子レベルでニューロンを保護し、正常な脳の老化と神経変性疾患の発症の一因となる神経炎症を抑制する。このことは、カンナビノイドが全身レベルでの老化のプロセスに影響することを示唆して」います。

ミトコンドリアの膜にある CB1 受容体に直接結合することにより、THC はミトコンドリア活性と過剰な酸化を制御します。一方 CBD は、カルシウムイオンの流入を促すイオンチャンネルを開いたり閉じたりするナトリウム・カルシウム交換輸送体(NCX)をはじめ、それとは別のミトコンドリア受容体群に作用します。ミトコンドリア内のカルシウム量の調節が、内因性カンナビノイドや CBD がニューロンを保護し、細胞のホメオスタシスを維持する仕組みの一つです。2-AG の主要な分解酵素である MAGL は、都合の良いことにミトコンドリアに近いところに位置し、一方 FAAH はアナンダミドを、別の小器官である小胞体まで運ばれたところで分解します。小胞体は、FABP によって細胞内を運ばれるカンナビノイドの旅の終着点です。

2013年:エンドカンナビノイドーム

CB1 受容体の発見から 25年、カノニカル・エンドカンナビノイド・システムという概念は、一連の新発見によって見直しが必要になりました。少なくとも、「カンナビノイド受容体」という概念を拡大し、アナンダミドと 2-AG が結合する3つの主な受容体グループを包含する定義が必要と思われました。TRP 受容体その他のリガンド依存性イオンチャンネル、PPAR 核受容体、そして CB1CB2 に加えての Gタンパク質共役受容体のいくつかです。

THCCBD、そしてその他の植物性カンナビノイドもまた、複数の受容体と見境なく結合します。さらに、大麻草だけでなくさまざまな薬草や香辛料に、CB1 受容体または CB2 受容体、あるいはその両方と結合する化合物が含まれています。薬草療法に限らず、その他の代替療法(断食、運動、整骨、指圧など)の効果もまた、カンナビノイド受容体を介して発揮されます

そのため科学者たちは、アナンダミドと 2-AG 以外にもさまざまな脂肪酸由来の脂質を含む、「より拡大したエンドカンナビノイド・システム」について考え始めました。これら「内因性カンナビノイド様化合物」はそれ自体が重要なシグナリング分子であり、中にはアナンダミドの分解酵素である FAAH によって代謝されるものもあります。2013年、カンナビノイド研究の第一人者、ヴィンセンツォ・ディ・マルツォ(Vincenzo Di Marzo)博士が「エンドカンナビノイドーム(endocannabinoidome)」という概念を提唱しました。これは、人体内の「リピドーム」と腸内微生物叢を含む、複雑なシステムです。内因性カンナビノイドによるシグナル伝達は、腸内フローラと脳の対話を促します — これは人間の健康の土台として、その重要性の認識が高まっているプロセスです。

最後に:歴史を振り返る

人間にとって非常に重要な生理学的システムであるエンドカンナビノイド・システムは、その発見のきっかけとなった植物の名にちなんで名付けられました。「大麻草を研究しなかったら、我々はそれを見つけていなかっただろう」とミシューラム博士も言っています。エンドカンナビノイド・システムについての科学的知見はすべて、大麻草という教師がいたからこそ得られたのです。

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カノニカル・エンドカンナビノイド・システムの基本的な構成要素が明らかになったのは、1990年代、いわゆる「脳の時代」と呼ばれた時期でした。その後私たちは、エンドカンナビノイド・システムについて、また エンドカンナビノイド・システムがその他数多くの脂性シグナリング分子や、CB1CB2 に限らない受容体のネットワークとどのように作用し合うかについて多くを学びました。エンドカンナビノイド・システムが適切に機能しなくなったとき、植物性カンナビノイドがその間隙を埋め、私たちを楽にしてくれることも知りました。大麻草がこれほど幅広い医療効果を持つのは、脳と全身に存在するカンナビノイド受容体やその他の経路を介して作用するからであるということもわかっています。

大麻草が植物として登場したのは今から 3,000万年近く前のことですが、エンドカンナビノイド・システムはその名前の由来となった植物よりもはるか以前から存在していました。振り返れば、エンドカンナビノイド・システムに関する科学的な理解は、逆の順番で起こったように思えます。研究者らが最初に着目した大麻草は、エンドカンナビノイド・システムよりもずっと後になって発達したのです。そして、カノニカル・エンドカンナビノイド・システムを構成する3つの要素 — 受容体、内因性カンナビノイド、酵素 — は、長い間かかってこれらが進化したのとは逆の順番で発見されました。

研究者らは、まず大麻草の化学組成を研究しました。その結果が、地球上で大麻草が花を咲かせる5億年以上昔に登場した、すべての脊索動物の祖先から持っている CB1 受容体の発見につながりました。CB1 受容体に関する知識が今度は、アナンダミドと 2-AG という2つの主要な内因性カンナビノイドの発見への道を開きました。この2つの化合物は、脊椎動物より古い、ヒドラその他の(カンナビノイド受容体を持たない)原生動物にもすでに存在していたのです。このことは、内因性カンナビノイドが進化したのはカンナビノイド受容体よりも前であったことを示しています。

進化生物学者であるモーリス・エルフィック(Maurice Elphick)は、カノニカル・エンドカンナビノイド・システムの3つの要素の中で最も昔からある — そして最後に発見された — のは、アナンダミドと 2-AG を産生し、分解する酵素であると言っています。細胞が内因性カンナビノイドを生成し、また分解する能力は、数十億年を遡って、地球上最も初期の生物、すべての動物や植物の祖先である単細胞生物に含まれていた原始的な酵素にその始まりがあったのです。

これが、私たちが大麻草から学んだことです。



Martin A. Lee は Project CBD のディレクターであり、『Smoke Signals: A Social History of Marijuana – Medical, Recreational and Scientific』『Acid Dreams: The Complete Social History of LSD – the CIA, the Sixties and Beyond』を含む数冊の著書がある。


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6月 29, 2020

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