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カンナビノイドとは、人体にあるカンナビノイド受容体、CB1CB2 の少なくともどちらかに作用する化合物のことです。カンナビノイドという化学物質は、大きく3つのグループに分けられます——大麻草が産生する植物性カンナビノイド、人体が産生する内因性カンナビノイド、そして実験室で合成され、自然界には存在しない合成カンナビノイドです。今回着目するのはこのうち、研究用として価値のある化学物質と危険な闇ドラッグを包含する3つめのグループです。

Project CBD は過去にも、合成カンナビノイドについて何度も記事にしており、たとえば 2019年に起きたべーピング危機に合成カンナビノイドが一役買った可能性についても紹介しました。そして合成カンナビノイドは現在も、化学者、医学研究者、製薬企業、警察、法律の専門家、公衆衛生担当者、そして薬物乱用者の関心の的であり続けています。

科学文献における合成カンナビノイドは、その主要な使用目的によってさらに細かく分類されます——カンナビノイド受容体やエンドカンナビノイド・システムについて研究を深めるためのツールであったり、特定の疾患に対する治療薬としての可能性であったり、安全な大麻草由来のカンナビノイドがいまだに禁じられている(多くの場合は研究さえ禁じられている)地域で蔓延する危険な嗜好用の麻薬であったりするのです。作るのは簡単で識別するのは難しいこれらの合成化合物にはこれまで、論文の中で記述された後に研究室から闇ドラッグ市場へと流出したものが数多くあります。

Project CBD が紹介する最新の基礎研究の多くは、ECS の機能のさまざまな側面について情報を引き出したり、合成化合物で人間の疾患を治療する可能性を探ったりするために合成カンナビノイドを使っていますが、最近発表された論文のいくつかは、これらの人工化合物の、ストリート・ドラッグとしての顔に焦点を当てています。

THCJWH-018

JWH-018 として知られる化合物(JWH という名称は、これを作ったクレムソン大学の有機化学者 John W. Huffman の頭文字をとっています)は、CB1 受容体に対する親和性が THC の5倍——つまり、大まかに言うと THC の 1/5 の量で同様の作用を引き起こす強力な合成カンナビノイドです。また JWT-018 はおそらく、研究室から闇市場に最も初期に流出した合成カンナビノイドであり、2000年代の初頭に、闇市場で販売された「スパイス」というドラッグの成分として使われたことで有名です。

その後 JWH-018 はいくつかの国で禁止され(そして原子が1個違うだけの別の合成化学物質に取って代わられ)ましたが、世界中の多くの国々では今も使われ続けており1 、研究者にとっては重要です。オランダのマーストリヒト大学の研究チームは最近の研究で、JWH-018 の効果を THC と比較しました。彼らの狙いは、摂取する用量ではなく「向精神作用」を同一にすることによって THCJWH-018 の神経認知に対する作用および幻覚発現作用の特徴を比較する手法を立証することでした。つまり、同チームが以前行ったプラセボ対照研究の被験者が感じた主観的な「ハイの程度」を同一に設定したのです。

2022年 5月に『Frontiers in Psychiatry』に掲載されたこの研究の結果2は、主観的に同程度の陶酔感をもたらす THCJWH-018 には思ったほどの違いがないことを示唆していました。どちらも被験者の精神運動能、分割的注意、衝動制御能力を低下させましたが、その程度は二つの間に差はありませんでした。また被験者による質問表への回答を見ると、いずれの物質も、著者らが著しいと判断する程度の精神異常作用(精神病の症状に似た症状)を引き起こしました。二つの物質の主な違いは、JWH-018 の方が、THC に比べて解離作用がかなり強いという点でした。

ただし研究室の外では、JWH-018 や同様の合成カンナビノイドが非常に強力であり、また闇市場で喫煙用に販売されている製品は含まれている成分がバラバラであるため、よく注意すべきであると著者らは促しています。「ユーザーが感じる主観的なハイの程度の最大値を予測することは非常に難しく、その結果、予想もしなかった神経認知作用が起きたり、過剰摂取がしばしば起こることとなる」と論文には書かれています。

メピラピムとスパイス

メピラピムは合成カンナビノイドの一つで、2013年に、日本でいわゆる脱法ハーブの中から検出された後、初めて科学文献に登場しました3。その後、日本から発表された 2015年の論文4は、メピラピムを他の薬と併用すると心不全や死につながることがあることを示唆し、同じく日本の研究者による 2017年の論文5は、フェンタニルの類似体であるアセチルフェンタニルとメピラピムを嗜好目的で併用した二人の若い男性の事例を報告しています。一人はこれらの薬剤を喫煙して生命は取り止めましたが、もう一人はこれらを皮下注射して死亡しました。

メピラピムの評判は、John W. Huffman の名をとった悪評高き「スパイス」の成分との関係によってさらに悪化します。「アメリカではスケジュール 1 の規制物質である JWH-018 と構造が非常に似ていることから、メピラピムは向精神作用と危険な副作用を引き起こす可能性が高い」と、2022年 6月に『Pharmaceuticals』に掲載された論文の中で韓国の研究者らは述べています。6

今日までのところメピラピムはあまり研究されておらず、ほんのいくつかの科学文献に言及されているだけです。したがってこの研究では、メピラピムの薬理学的特徴と生理作用をより詳しく調べることを目的とし、その依存性に焦点を当てました。案の定、メピラピムを投与されたラットは、対照群と比べて「静脈内自己投与が持続」するという結果でした。

論文は、メピラピムが「脳内での神経化学的な不適応を通して中毒的症状を引き起こし」、それは CB1 カンナビノイド受容体が強力に活性化されることが原因である、と結論しています。ただしこの最後の点については、メピラピムをはじめとする新しい合成カンナビノイドに関してやはり最近発表された論文に、これらの薬物の中枢神経系の CB1 受容体に対する作用はごくごくわずかであり、それらの作用は他の経路を通して起こる、と述べられており、議論の余地が残ります。7

その他の合成カンナビノイドいろいろ

2022年 5月にはさらに、嗜好用ドラッグとして消費されている合成カンナビノイドの薬理学的作用とその弊害についての二つの論文が発表されました。

そのうちの一つは、ベルギーとイタリアの研究者のチームによって『Drug Testing and Analysis』誌に発表されたもの8で、2021年 7月に中国で制定された、分子構造の核にあたるスキャフォールドとなる7種類の物質のいずれかを含む合成カンナビノイドを禁止する法律を回避することを明確な目的として設計された少数の物質について述べています。これらの物質は「酸化カンナビノイド」と呼ばれ、指定された7種類の物質とは異なったコア構造を持ち、厳密には合法、あるいは少なくとも明確に違法ではありません。

この研究では、こうした酸化カンナビノイドのうちの5種類について、CB1 受容体と CB2 受容体におけるそれらの効力(POTENCY)と有効性(EFFICACY; その薬物によって受容体が起こす反応の最大値のこと)を調べました。5つはすべて CB1 受容体の全的作動薬、CB2 受容体の部分作動薬として作用しました。中でも BZOCHMOXIZID と呼ばれるものはいずれの受容体に対しても非常に強力に作用し、乱用の危険性が高い物質として規制当局の監視リストに載っています。

もう一つの論文は『Toxicology Mechanisms and Methods』に掲載されたもの9で、UR-144 と呼ばれる分子に対象を絞っています。UR-144 はすでに世界中で、それ単独、あるいは他の違法合成カンナビノイドと組み合わせて広く使用されています。トルコの研究者らは、UR-144 の使用に伴って重篤な心血管症状が起きる機序を分子レベルで評価しました。

その結果、UR-144 は細胞質の Ca2+(カルシウムイオンであり、偏在する細胞内情報伝達物質)の増加と DAPK1(細胞死を調節する酵素)の活性化によって細胞死を引き起こすことがわかりました。これは一般の薬物使用者や公衆衛生当局者には少々専門的に過ぎるかもしれませんが、UR-144 が研究者の興味の対象であることは間違いありません。この論文の著者らは、UR-144 が持つ心毒性の分子機序についてさらに明らかにする研究を呼びかけています。


Nate Seltenrich は、サンフランシスコのベイエリアに住む科学ジャーナリスト。環境問題、神経科学、薬理学を含む幅広いテーマについて執筆している。

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参考文献

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