
カンナビジオール(CBD)やテトラヒドロカンナビノール(THC)といった植物性カンナビノイドは、内因性カンナビノイドと面白い関係にあります。
CBD が体内の内因性カンナビノイド量を急性的に増加させるということは、しばらく前からわかっています。抗精神病作用から抗炎症作用まで、CBD の持つ医療効果の中には、カンナビノイド・トーンの改善が原因と考えられているものがあります。初期の実験結果からは、CBD が、アナンダミドの分解酵素 FAAH の働きを阻害するということが示唆されましたが、その後の実験はそのことを裏付けませんでした。
2009年、ストーニーブルック大学の研究者らは、内因性カンナビノイドが細胞内を移動するのを助ける脂肪酸結合タンパク質(FABP)を特定しました。この研究チームはその後、CBD と THC が、FABP からアナンダミドを追い出すことで内因性カンナビノイド再取り込み阻害薬として作用し、その結果、ニューロンその他の細胞の表面における内因性カンナビノイドの作用を長引かせるということを発見しました。
最近は、インディアナ大学のエマ・リーシュマン(Emma Leishman)、ヘザー・ブラッドショー(Heather Bradwshaw)らの研究チームが、CBD がアナンダミドの量を増加させる仕組みとして、それとはまた別の方法があると提唱しています — CBD がアナンダミドの生成を促進させるのです。
専門的すぎるかもしれませんが、その機序は以下のようなものです。まず、ホスホリパーゼと呼ばれる酵素が、細胞壁から脂肪を切り取ります。次にホスホリパーゼ C(PLC)はジアシルグリセロール(DAG)リパーゼと一緒に 2-AG を産生し、NAPE-PLD と呼ばれる類似酵素がアナンダミドを合成するのです。
培養細胞、あるいはマウスの脳では、CBD の投与によってアナンダミド(と、密接に関係しているその他の脂肪酸)量が増加しました。ところが、アナンダミドの生成酵素 NAPE-PLD を持たないように遺伝子操作されたマウスでは、CBD はほとんど増加しませんでした。(非常に不思議ですが、CBD 投与前のアナンダミド量は NAPE-PLD を持たないマウスでも差がなく、アナンダミドはこれとは違う方法で合成されるということを示唆しています。)
一方 THC は、アナンダミドと関連脂質の量を減少させる傾向がありました。ただし、用いられた実験手法の違いによって結果にはばらつきがありました。論文の著者らはまた、THC と CBD を組み合わせた場合、それぞれを単独で投与した場合とは異なる形で脂質プロフィールを変化させることを発見しています。1:1 で組み合わせたところ、THC のみ、CBD のみ、あるいは単純にこの2つの結果を加えることで予想される結果とは異なる、「個々の薬剤が引き起こす結果の寄せ集め」を生んだのです。このことは、2つのカンナビノイドの間にはより複雑な相互作用があることを示唆しています。アントラージュ効果についてご存じの方ならば驚くにはあたらない結果です。
CBD の作用が多面的なものであることは明らかです。脂質に与える影響は、複数の研究者が用いたモデルの違いによって同一ではありませんでしたが、これはおそらく CBD が作用する他の分子標的によるものでしょう。CBD が NAPE-PLD に作用する仕組みはまだ不明ですが、これらの実験結果は一貫性のあるいくつかの傾向を裏付けています。CBD は、THC と同様に、炎症性脂質と抗炎症性脂質のバランスを変化させ、この2つが組み合わさると何が起こるかは明らかではないのです。植物性カンナビノイドには、炎症を軽減させ、体内の内因性カンナビノイド量を増加させる傾向がありますが、これは、具体的にどの細胞か、どんな動物か、あるいは実験の手法によって異なります。