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長年にわたり世界最大の違法大麻の産出国であったモロッコ。概して保守的な政府が制定した新法によって、とうとう合法的な大麻市場が誕生しました。この新法は、リーフ地方の山間部で昔から大麻を栽培してきた小規模農家の救済のために作られたものです。

ただしこの制度は輸出市場をターゲットとしており、「嗜好」利用を明確に禁じています。また、軍隊色を強める大麻の取り締まりに、意味のある緩和が行われるかどうかもまだわかりません。

医療利用及び産業利用のための大麻栽培を合法化する Organic Bill 13.21 は、2021年 6 月 15日、モロッコ下院での投票により 61 対 25 で承認されました。その1週間前には上院を、119 対 48 で通過しています。

これにより、保守的な公正発展党(PJD)のサアデディン・オスマニ首相が 3月 11日に法案を提出して始まった、数か月にわたる騒動が決着したことになります。

これは、長年にわたって大麻取締法のいかなる緩和にも反対してきた公正発展党が見せた過激な変化でした。公正発展党はこの理由として、強硬な政策は失敗だった、という国際合意が強まりつつあることを挙げています。

「世界の薬物規制制度が採用してきた、単に抑圧的なだけのやり方には『オルタナティブな開発』に限界があり、地方に暮らす大麻草の栽培家が直面する経済的・社会的・環境的な問題を解決できていない」と、法案提案時の声明で公正発展党は述べています。

大麻問題を盗む

4年前、大衆蜂起に悩まされていたリーフ地方の対立政党の政治家たちが大麻合法化案を提出しましたが、モロッコ政権はただちにそれを潰しにかかりました。現在は、2011 年から政権の座にいる公正発展党がこの政権を握っており、ムハンマド6世のいる王家は、たとえば首相の任命や解雇ができるなど、大きな政治権力を維持しています。>

2021年 9月に予定されている総選挙では、保守派のオスマニ首相が反対政党から大麻という政治的課題を盗み取って自党に有利に使おうとしているのではないかと思われます。ところがこれは明らかに、彼が政党内での支持を失う結果となりました。公正発展党の議員の多くはイスラム主義連合に合流し、上院・下院ともに Organic Bill 13.21 に反対の票を投じたのです。3月にこの法案が提出された際には、このことに抗議して、議会の指導的立場にあった前首相、アブデルイラーフ・ベン・キーラーン議員が離党しました。

オスマニ政権の閣僚たちがこの法案への支持を取り付けようとして議員たちと持つミーティングが白熱している、と現地のマスコミは伝えました。アブデルワフィ・ラフティト内務大臣は、この法案は「嗜好」目的の大麻使用を合法化するどころか非犯罪化するものでさえない、と強調し、合法的な大麻の栽培を、リーフ地方の経済的孤立から解放するために重要なものであると説明しました。

その結果実際に政権は、この件に関しては、おかしなことに、議会における自党の連合よりも進歩的世俗的な野党議員たちから多くの支持を得たのです。

Federation of the Democratic Left の Omar Balafrej 議員は、この合法化法案はとっくに提出されていて然るべきだったと述べました。「現実に即した法律なしには開発は不可能です。モロッコの独立以来、この問題はずっと解決されなければならなかったのです」

また、Authenticity & Modernity Party(真正近代党)の Moulay Hicham Mhajri 議員は、公正発展党の議員たちが頑なに態度を変えようとしないことに対する激しい怒りを表出させ、「なぜ政府が採択した文案に与党が反対するのか?」と述べています。

「ここでは大麻しか育たない」

リーフ地方の山間部は、起伏が激しく人里離れて荒涼とした地域で、人種構成も独特(非アラブ系)です。ベルベル人の農家たちは昔から、モロッコのハシシ生産の中心をなしてきました。新法に対する彼らの意見は分かれているようです。彼らの懸念の一つは、過去の大麻関連犯罪記録の抹消と、現在発行されている逮捕状の無効化に関する条項がないということです。またこの新法は、ハシシの生産の合法化を明文化しているわけでもありません。

何よりも、輸出が強調されていることと、国内での嗜好大麻市場に関する条項が一切ないことが、十分な資本を持つ少数の大企業が市場を独占するのではないかという恐れを生んでいます。

モハメド・エル・ムーラビットは、アル・ホセイマ州のケタマという村で大麻を栽培している農家ですが、この新しい法律が、この地方を包む「恐怖の壁」を壊してくれるといいのだが、とロイター通信に語っています。「恐れと秘密主義にはもううんざりなんです。まともな生活がしたい」

彼は、昔からの大麻経済は、環境と文化遺産として否応なく受け継がれてきたものだと強調します。「穀物を育てようとしたこともありますよ…..でも暮らしていけるほどの収穫がない。ここらで育つのは大麻だけなんですよ」

キーフとキラの政治と経済

大麻は 1954年にモロッコの政府によって正式に非合法化されましたが、(おそらくは低く見積もられている)公式の推定によれば、現在でも大麻栽培で生計を立てている世帯が 6万軒あります。国連薬物犯罪事務局(UNODC)によれば、リーフ地方ではおよそ 4万 7,000ヘクタールが大麻栽培に当てられています。これは 2003年の栽培面積の3分の1であり、2003年以降の政府による厳しい取り締まりが原因です。それでも、UNODC による最新の World Drug Report によれば、モロッコは今も、非合法大麻の世界最大の生産国という立場を保っています。

モロッコ国内の大麻は普通、キーフという形で摂取されます。花穂からふるい落とされた、THC を豊富に含む細かいパウダーのことです。ハシシはモロッコではキラと呼ばれ、キーフを濃縮し、圧力、熱、ときには溶剤や凝固剤を使って固形化したものです。凝固剤はもともとはハシシを製造する人の手の汗でしたが、現在はエタノールを使うことが多くなっています。これが非合法に輸出される製品の形状です。

モロッコは、世界の闇市場、特にヨーロッパ市場での、ハシシの最大の供給国です。その売り上げは年間 70億ドルと推定されており、ハシシはモロッコにとって最大の外貨獲得源なのです。もちろん、この売り上げのほとんどは犯罪者組織と中間業者が吸い上げるわけですが、ベルベル人大麻農家に戻ってくる金は、彼らが経済的に生き残るためにはなくてはならないものです。

政府の認可を得ての大麻栽培が、海岸地方の平野(現在はオリーブ、柑橘類、ワイン用のブドウなどが生産されています)で大規模資本によるアグリビジネスを行っている企業に独占されるのを阻止するため、新法では、栽培できる州をすべてリーフ地方の6州(アル・ホセイマ州、シャウエン州、ウェザーン州、タウナート州、ララシュ州、テトゥアン州)に限定しています。

瀬戸際からの復活

転機は、リーフ地方で 2017年に起きた大衆暴動だったように思われます。そのとき政府は、この地方で強引な取り締まりを行っても騒動に油を注ぐだけだと気づいたのです。

2005年、モロッコ政府が破壊した大麻農園は、公式の数字で 1万 5,160ヘクタールに及びます。2011年には、より広い意味でのアラブの革命に関連した地元住民の抗議が続く中、リーフ地方の村々にヘリコプターから殺虫剤が散布されたという報道がありました。表向きは収穫できる大麻を根こそぎにするためでしたが、コロンビアで見られたように、麻薬取り締まりと暴動鎮圧が一緒にされるのではないかと人々を不安に陥れました。

幸いモロッコは、ギリギリのところでその危機を回避しました。UNODC が発行した World Drug Report 2020 によれば、モロッコが 2017年に排除した大麻畑はわずか 523ヘクタール、2018年はゼロでした(数字は 2018年が最新のものです)。2011年の抗議に応える形で行われた憲法改正も、ベルベル人の権利を拡大し、彼らの言語であるタマージク語はアラビア語と対等に扱われることになりました。

ただし、軍隊による密輸ルートの取り締まりは激しさを増しています。大量のハシシが没収されたというニュースを1週間聞かないことはまずありませんし、それは通常、モロッコの軍隊によるものです。

取り締まりは続く

最近の典型的な事例では、2021年 6月 9日にモロッコ王国海軍が、地中海北部の港クサル・スギールの沖合でスペインの密輸入者の船を捕え3人を逮捕したことが、Morocco World Newsによって報道されました。同記事は、2020年に没収された大麻の量を 217トンと報じています。

5月18日には、Morocco World News はもっと不吉な調子で、モロッコ警察が、ラーユーヌの町の近くで 1.26トンの大麻を没収し、「犯罪組織」に属すと言われる2人の男を逮捕したと報じました。ラーユーヌという町が、モロッコが占拠する紛争地域であり、長年にわたって独立派の運動が地元の抵抗活動と武装勢力に活力を与えてきた場所であることは、この記事には言及されていません。

それまで植民地として西サハラを統治していたスペインが 1975年に撤退すると、モロッコがここを占拠し、初めはモーリタニアと分割統治していましたが 1980年にはモーリタニアが撤退し、現在モロッコはこの地方全体を併合しています。ただし、ここが自国の領土であるというモロッコの主張を認めている国は一つしかありません — アメリカ合衆国です。そしてそれはトランプ政権による決定です。モロッコの王国軍はここのところ、西サハラでその存在感を強めており、それは麻薬その他の輸出入禁止製品の流れを止めるためであるとされています — これもまた、麻薬の取り締まりと政治的暴動への対策が混同されているように見える一例です。

合法大麻に対する慎重なアプローチは、モロッコにとっての大きな転換点となるかもしれません。この、北アフリカの立憲君主国家は、Organic Bill 13.21 で大きな一歩を踏み出しました。でも、そもそもこの新法の制定を可能にした進歩派野党勢力は、この新法が、本当の意味で公平な、多様性を受け入れる形で施行されるよう、厳しく見守っていかなければならないでしょう。


ビル・ワインバーグ(Bill Weinberg)は、人権問題、環境、薬物政策の分野で30年の実績と受賞歴を持つジャーナリスト。High Times 誌のニュースエディターを務めたこともあり、現在は CounterVortex.orgGlobal Ganja Report というウェブサイトを運営している。


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