大麻と緩和ケア

大麻と緩和ケア

尊厳ある死を迎えることは人間の権利です。大麻がその役に立つかもしれません。
尊厳ある死を迎えることは人間の権利です。大麻がその役に立つかもしれません。

終末医療における医療大麻について語られることはあまりありません。だって、医療大麻を使う人の多くは、生きたいからそうするわけですものね。とは言え、患者が苦しんでいる症状を改善でき、副作用もほとんどない大麻が最も役に立つのは、実は緩和ケアという医療分野かもしれません。

死とは私たちの誰もがいずれは辿り着くところですが、どのようにして「良く死ぬ」かということを、私たちは考えようとしません。尊厳のある死とは、患者にある程度意識があり、死というプロセスを受容できてはじめて可能なのだと私は思っています。モルヒネで意識が朦朧としていてはそれはできません。ですが、医療大麻を使えばそれが可能なのです。このことを私は、友人の母親が亡くなったときに初めて目撃しました。

膵臓がんと闘ったジョージーに死が近づいたとき、モルヒネはその苦痛を抑えることができず、ジョージーは意識が朦朧として親しい人々と意思を疎通することができずにいました。ですが、偏見を持たずに大麻オイルを勧めてくれた医師のおかげで、ジョージーの最後の数週間は、家族が望んでいた通りの素晴らしいものになりました。ジョージーはもはや痛みに苦しむこともなく、不安もやわらぎ、眠れるようになり、食欲も戻りました。それだけではありません。ジョージーは、死の直前まで意識がはっきりしていました。

この経験が私を変えたのです。そしてこれが、今私がこうやって大麻についての記事を書いている理由です。

ホリスティックな医療

悲しいことに、私の母が進行がんで余命を宣告されたとき、イギリスには医療大麻という選択肢はありませんでした。もちろん、大麻でつながっている何人かの知人は大麻の提供を申し出てくれました。でも、82歳のアイルランド人で元看護師の母にとって、妙な味のする(しかもどれくらいの量を摂ったらいいのかもよくわからない)オイルを、医師が処方して正確な用量もわかる医薬品よりも信頼するなど、もってのほかでした。

そこで私は一連の処方薬を母に投与しましたが、その一覧はがんの進行とともにどんどん長くなっていきました。そこには、疼痛コントロールのためのモルヒネ(ちなみに母はモルヒネを認容できない体質でした)、吐き気を抑えるための制吐剤、がんと鎮痛薬が引き起こす便秘のための下剤、夜間に興奮状態になった場合のためのロラゼパム [訳注:精神安定剤] などが含まれていました。

あまりにも辛い状況でした。母の症状は、こんなふうに力づくで抑えようとするよりも、もっとずっと包括的で患者を中心に置いた別のやり方があるということ、それは痛みをやわらげるだけでなく不安感や興奮も軽減させ、食欲を刺激し、吐き気を抑え、母は残された時間をしっかりした意識で過ごせることを、私は知っていたのですから。

緩和ケアとは何か?

世界保健機関(WHO)の定義によれば、緩和ケアとは「生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のクオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチ」です。

言い換えれば、緩和ケアには終末期医療が含まれますが、緩和ケアを受けている患者に必ずしも死期が迫っているわけではありません。

ただし、患者がホスピスで死を迎えようとする段階になると、生活の質に重点が置かれますから、死んでいく患者の望みや信念を叶えるために規則が曲げられることもよくあります。ペットの犬や家族は患者の部屋では大歓迎ですし、患者が望むならばワインの一杯を飲ませるというのも珍しくありません。だとすれば、死んでいく患者の苦しみをやわらげるのに役立つのならば、医療大麻を使わせてあげてどこが悪いのでしょう?

世界の数か国、またアメリカでは複数の州が、医療大麻を使える症状として緩和ケアと終末期医療を挙げています。

緩和ケアにおける医療大麻

2007年以降、イスラエルの保健省は、がん患者の緩和ケアに医療大麻の使用を認めています。それを受けて 2970名の患者を対象として大麻の安全性と効果を調べた前向き研究では、非常にポジティブな結果が得られました [1]。

6か月後のフォローアップに回答した患者の 96% が症状が改善したと答え、変化が見られなかった人が 3.7%、症状の悪化を報告した人は 0.3% だったのです。さらに、医療大麻による治療を始める前に自分の生活の質が良いと答えた人は 18.7% にすぎなかったのに対し、6か月後にはそれが 69.5% に増えました。患者の3分の1強がオピオイド系鎮痛薬の使用をやめたことが、その効果を物語っています。

こうした観察研究は、医療大麻が、一般的に進行がんに伴う症状を改善し生活の質を向上させるということを示唆していますが、現実には医師の多くが、患者に医療大麻を処方できるほどの知識が自分にはないと感じています。

2018年に行われたあるアンケート調査によれば、回答したアメリカのがん専門医 237名のうち、医療大麻の使用について患者と話をすると答えた人は 80% でしたが、自分が実際に十分な情報持っていると感じている医師は 30% にすぎませんでした [2]。ただし、大麻が疼痛緩和のための新しい方法として有益と考える医師は 67% と多く、また65% の医師が、進行がんの患者に多い急激な体重減少に対して、標準的な治療法と同等かそれ以上の効果があると答えました。にもかかわらず、実際に患者に医療大麻を処方している医師は 45% しかいませんでした。

この数字の差は、緩和ケアのために大麻を合法的に処方できる国でさえ、従来の方法での症状コントロールに固執する医師が多いということを意味しています。

医師の視点

カナダの開業医で『Cannabis in palliative care: current challenges and practical recommendations』の著者であるクロード・スィール(Claude Cyr)は、緩和ケアほど医療大麻が適している分野はないと考えています [3]。

「大麻製剤を医療に取り入れたいのなら、緩和ケアはその入口として一番相応しいですよ。なぜなら緩和ケア医には時間があるし、患者にも、医療大麻が引き起こす可能性がある問題に対応する時間がありますからね」

ただし、緩和ケアにおける医療大麻がその力を存分に発揮するためには、症状の管理ということに関する医師の考え方が変わる必要がある、とスィール医師は言います。

「症状管理に関する研究で明らかになりつつあるのは、医療大麻が、疼痛悪心睡眠障害、そして不安神経症に対して穏やかな効果を持っている、ということです。そうした症状のどれ一つとして、現在私たちが持っている医薬品と比べて劇的に改善するわけではないんです。だから多くの医師が、『特定の症状に対して切れ味の良い治療法があるのに、穏やかに作用する薬をわざわざ使う必要はないではないか?』と考えるのです。『ちょっと痛みもあるし、軽い不安感もあるし、よく眠れないし、食欲もあまりないし、ちょっと吐き気もあるんですね? じゃあそれら全部の症状に穏やかに効くものをまず試してみて、それから長期的に特定の症状について考えましょう』とは考えないわけですよ」

スィール医師はまた、多くの医師が臨床試験の結果に頼りすぎ、目の前の患者が実際に体験したポジティブな効果の重要性を無視しがちであることを批判します。

「緩和ケアというのは、エビデンスに基づく枠組みを土台とする医療哲学そのものに問いを投げかけることのできる領域です。医師というものは、目の前で死にかけている自分の患者が明らかに、『これは素晴らしい、とても効果を感じる、よく眠れるし、食事も美味しい』と言っているならば、エビデンスに固執するのはやめなければいけないと私は思います。それなのに医師は、『あなたの言うことはわかるが、認めるわけにはいかない、エビデンスが不足しているからね』と言うんです」

「でも私は、『大麻を緩和ケアに使うのは安全だしどうなるかの予想もつく』と医師が納得するに足るだけのデータは存在していると思っています」

緩和ケアにおける精神作用の功罪

スィール医師は他の医師に対し、大麻の持つ精神作用を問題と考えないよう勧めています。大麻の精神作用はむしろ、死を目前にした多くの患者が味わう実存的不安を乗り越える助けになると彼は考えるのです。

「がん患者が抱えるうつや実存的不安に対する幻覚剤の効果の研究を見ると、中には劇的な効果を上げたものがあります」とスィール医師は言います。「大麻は本当の意味での幻覚剤ではありませんが、患者の話には共通点があります [4]。ごく少量を摂取するとサイコリティックな効果が表れ、警戒心が弱まって自分の気持ちの普段とは違う面について考えることができるようになり、その結果、自分の人生のさまざまな側面が繋がり始めるんです」

また THC には、認知処理に関与し自我あるいは自己認識の存在するところと考えられているデフォルトモードネットワークの活性を低下させる力があるので、死を間近にした患者に心の平安をもたらせる可能性もあります。[5][6]

スィール医師はこう説明します。「実存的不安は、自我の喪失感にその原因があります。一時的に自我を手放し、重要なのは自分だけではないということに気づくとき、人は自由になれるのです」

この 50年間、医療大麻合法化活動家たちは、健康であるための治療に大麻を使用する権利を訴えてきました。その訴えはまた、生命を脅かす疾患の患者が生活の質を維持するために、またそれがもはや不可能なときには、尊厳を持った「良い死」を迎えるために医療大麻を使う権利にまで拡大されるべきなのです。

ジョージーとアグネスの思い出に捧ぐ


Project CBD の寄稿者メアリー・バイルズ(Mary Biles)は、ホリスティックヘルスに造詣の深いジャーナリスト、ブロガー、エデュケーター。イギリスとスペインを拠点とし、医療大麻研究の進歩を正確に報告することに注力している。


当サイトの著作権は Project CBD にあります。許可なく転載を禁じます。


参照文献

  1. Bar-Lev Schleider L et al. Prospective analysis of safety and efficacy of medical cannabis in large unselected population of patients with cancer. Eur J Intern Med. 2018 Mar;49:37-43.
  2. Braun IM et al. Medical Oncologists’ Beliefs, Practices, and Knowledge Regarding Marijuana Used Therapeutically: A Nationally Representative Survey Study. J Clin Oncol. 2018 Jul 1;36(19):1957-1962.
  3. Cyr C et al. Cannabis in palliative care: current challenges and practical recommendations. Ann Palliat Med. 2018 Oct;7(4):463-477.
  4. Roland R Griffiths et al. Psilocybin produces substantial and sustained decreases in depression and anxiety in patients with life-threatening cancer: A randomized double-blind trial. J Psychopharmacol. 2016 Dec; 30(12): 1181–1197.
  5. Matthijs G. Bossong et al. Default Mode Network in the Effects of Δ9-Tetrahydrocannabinol (THC) on Human Executive Function. PLoS One. 2013; 8(7): e70074.
  6. R. L. Carhart-Harris et al. The default-mode, ego-functions and free-energy: a neurobiological account of Freudian ideas. Brain. 2010 Apr; 133(4): 1265–1283.

 

Revision date: 
1月 2, 2020

本サイトの内容は、アメリカの非営利団体 Project CBD の記事を翻訳したものです。科学的エビデンスに基づいた情報の提供が目的であり、日本国内における違法行為を推奨するものではありません。 サイトのポリシーについてはこちらをご覧ください。

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