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「歴史は往々にしてその過ちを繰り返す」—スティーブン・ジェイ・グールド

ニューヨーク・タイムズ紙記者出身のサイエンスフィクション作家、アレックス・ベレンソン(Alex Berenson)の新著は、かのハリー・アンスリンガー(Harry Anslinger)も顔負けの内容です。アンスリンガーと言えばもちろん、長年にわたって連邦麻薬取締局の局長を務め、「悪魔の草」ことマリファナに対して、厚顔無恥で人種偏見に満ち満ちた卑劣なネガティブキャンペーンを展開し、人々を猟奇殺人気呼ばわりした人物です。

『Tell Your Children: The Truth About Marijuana, Mental Illness and Violence(あなたの子どもに伝えなさい — マリファナと精神疾患と暴力についての真実)』(Free Press、2019年刊)と題されたベレンソンの新著は、アンスリンガーが執拗に喧伝した根も葉もない嘘を今に蘇らせるものです。1936年に公開され、今では大麻愛好家の間で一種のカルトムービーとして面白がられている映画『リーファー・マッドネス』のもともとの題名が『Tell Your Children』だったと聞けば、なるほど、と納得できます。

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でもどうやらベレンソンにはこの滑稽さがわからなかったようです。そしてそれは、『The New Yorker』誌にこの本を絶賛する記事を書いた大衆社会学者マルコム・グラッドウェル(Malcolm Gladwell)も同じです。

ベレンソンとグラッドウェルは、市販薬と処方薬を含め、手に入るすべての薬の中で大麻は最も安全性が高い、という科学的合意を否定しようとします。我々の健康に影響を与える物質のすべてがそうであるように、大麻にも、ポジティブな影響と同時にネガティブな影響もあり、それについては徹底的な研究と監視が必要です。でも、科学者でもなければ、科学についても統計学についてもまったくの無知であることが明らかなベレンソンとグラッドウェルは、大麻の良い点と悪い点を比較したり、エビデンスを検証したりすることには興味がないのです。

そうする代わりにベレンソンは、自分に都合の良い、最悪の、悪夢のようなストーリーばかりを選んで使います。科学的データを不適切に切り貼りして、大麻やその成分が精神疾患と暴力を引き起こすという物語を組み立てるのです。そうやってできた奇怪な理論は科学者には通用しません ー 少なくとも、議論に使われた実際の研究に携わった科学者には。

この本を疑いの目で見るのをしばしやめて、大麻、特に、明らかになっているその健康効果に関する肯定的なエビデンスをすべて無視すれば、そこには悪意に満ちたパロディが浮かび上がります。ベレンソンの本には、科学的研究についての嘘や誤った解釈が溢れています。ベレンソンとグラッドウェルは、大麻の有害性に関して相矛盾する、再現不能な科学的データや研究結果があった場合、必ず最悪のデータが事実であるとみなしています。

では、この現代版「リーファー・マッドネス」について、その主な欠陥をいくつかのテーマに分けて解剖していきましょう。

その1:大麻と精神疾患—相関関係と因果関係の混同

ベレンソンの本とグラッドウェルの記事が使っている主な手法は、大麻との相関関係や関連性を示す研究を取り上げ、それらをすべて因果関係であるとみなす、というものです。そういう重大な結論ありきの議論では、どんな精神疾患のケースであれ、そこにいかなる量であれ大麻が存在すれば、それがすなわちその精神疾患の原因とされてしまいます。疾患や暴力沙汰の原因を何か一つの要因のせいにしようとする態度は、人の価値や可能性をたった一つの要因に帰そうとする遺伝主義的・優生学的なイデオロギーの匂いがプンプンします

大麻の使用と精神疾患の間に関連性または相関関係があったからと言って、それは必ずしも、大麻が精神疾患の原因であるということを意味しませんし、大麻の使用を防げば精神衛生が改善するということでもありません。その逆である可能性もあります — つまり、精神的な問題のある人が、一種のセルフ・メディケーションとして大麻を使うのだという可能性です。

Spurious Correlations(疑似相関)” という名前のウェブサイトがあります。疾病対策予防センターその他の情報源からのデータを豊富に用いて、関連性と因果関係をごっちゃにすることの愚かさを非常にうまく説明しています。このウェブサイトをググれば、強い関連性はあるけれども明らかに因果関係はない現象の例をたくさん読めます。

例を挙げましょう。みなさんは、過去10年または20年の間、チーズの売り上げと、自分のベッドでシーツが首に絡まって死んだ人の数には、95%の相関関係があることをご存知でしょうか? 非常に有名な、アイスクリームの売り上げと溺死(どちらも夏の暑い日に増加します)の相関関係の例もあります。これらの例は、相関関係または関連性を示しているかもしれませんが、疑似相関であると考えた方がいいでしょう。

その2:THCでハイになると、疑心暗鬼、妄想、精神病エピソードが起こり、暴力につながる

暴力と精神疾患にはさまざまな因子が複雑に絡まり合っています。ベレンソンは、凶悪犯罪を大麻使用のせいにして、精神的健康と凶悪犯罪に関する私たちの理解を馬鹿にし、混乱させています。ある人の人生に起きることに、精神疾患の家族歴や社会的・経済的環境などの要因が与える影響を無視しているのです。

ベレンソンとグラッドウェルのように、大麻が精神疾患と凶悪犯罪を引き起こすと決めてかかることは、私たちの創造力を狭め、大麻は「悪い影響を人に与える」という思い込みの外側にある解決策を見えなくしてしまいます。これは社会にとって大いなる損失であり、とりわけ、精神疾患のある人に凶悪犯の烙印を押す残酷な仕打ちです。

大麻と猟奇的な暴力の間に因果関係がある、と決めつけるのは陳腐ですが、ある意味で反証は不可能です — なぜならこれは、臨床試験で虚偽であることを証明できる類の主張ではないからです。仮にあなたが、大麻の使用が統合失調症の原因になると主張しているとしたら、倫理的に言って、ある人に大麻を与えてその人が本当に統合失調症になるかどうかを試験することなどできません。

実際には、(臨床データではありませんが)大麻は統合失調症の原因にはならないということを示すしっかりしたデータは豊富に存在します。まず、人口学的分析によれば、1960年代以降アメリカでは大麻使用者が大幅に増加していますが、それに伴う統合失調症の増加は見られません

コーヒーを飲みすぎると神経過敏になる、と言うことはできます。が、コーヒーを1杯飲むと ADHD(注意欠陥多動症)になる、と主張することはできません。同様に、THC を摂りすぎると、死ぬことはなくても一時的な不安神経症や偏執症を引き起こす、と言うことはできても、それは THC が精神疾患の原因になる、という意味ではありません。仮にある薬物を摂った直後に、ある疾患の症状に似た作用を引き起こしたとしても、それはその薬がその疾患の原因となるということを必ずしも意味しないのです。

暴力と精神病と天候

統計的に有意な関連性や相関関係がある、ということは、因果関係の証明にはなりません。次に挙げるのは、凶悪犯罪の増加と精神疾患の発症に対して大麻以上に強い関連を持つさまざまな要因です。

  • 所得の不均衡と犯罪率には正の相関がある(アメリカは世界で3番目に所得の不均衡が大きい国) 
  • 世帯収入の低さと精神疾患罹患率の高さには関連性がある 
  • (季節にかかわらず)気温が高いと凶悪犯罪が増える 
  • 知能の高さと精神疾患発症には関連性がある 
  • 凶悪犯罪の増加と酒類が入手しやすくなったことには関連性がある 
  • 頭部損傷と精神疾患の発病には強い関連性がある 
  • 凶悪犯罪の増加と高血圧には関連性がある 
  • 学校の成績でAを取ることと双極性障害の発症リスクには関連性がある 
  • 森林火災の煙は、凶悪犯罪および喘息の増加と関連性がある 
  • ファストフード、砂糖、ソフトドリンクを摂取することと、ADHA 有病率の高さには関連性がある 
  • 鉛への暴露は犯罪増加と関連性がある 
  • 一般的な精神疾患(うつ病と不安神経症)の罹患率の高さは、低学歴、貧困、失業率、そして高齢者においては社会からの孤立と関連性がある (PDF
  • 凶悪犯罪の増加と、貧困者居住地域の中産階級化には関連性がある 

その3:大麻はゲートウェイドラッグであり、オピオイド薬の使用を増加させる

麻薬取締局(DEA)さえ、そのウェブサイトの情報を訂正し、ゲートウェイ仮説を裏付けるに足るエビデンスは存在しないことを認めています。これは、大麻の使用は、他の危険薬物の使用にいやおうなくつながっていく、という仮説です。

にもかかわらずブレンソンとグラッドウェルは、(戦争終結を知らず、60年間森に隠れ続けた後に姿を現した日本の兵士のように)まさに麻薬撲滅戦争を象徴するかのような古くさいゲートウェイ仮説という冗談を引っ張り出しています。これは、大麻はオピオイド薬依存症への布石であるという、科学的根拠のない主張です。

大麻の使用と、オピオイド薬やベンゾジアゼピンなどの処方薬の使用の劇的な減少の間に関連性がある、というエビデンスが集積されつつあります。科学的な研究は、大麻はむしろオピオイド薬やアルコール、その他の薬物を止める助けになる可能性があることを裏付けています。こうした科学的なデータは、ゲートウェイ仮説を否定するのみならず、ベレンソンが主張する大麻に関する最悪のシナリオとは逆のことを立証しているのです。

大麻ユーザーの中には、後に大麻以外の薬物を使う人や、薬物使用障害になる人さえいるというのは事実です。でも、医師や薬物乱用についての研究者のほとんどは、大麻を吸うことはハードドラッグの使用の動機にはならないという考え方で一致しています。人が危険薬物に手を出す動機は、ストレス、適応障害、オピオイド薬やベンゾジアゼピンなどの処方薬の使用などであって、ちょっとばかり大麻をふかしたせいではないのです。

その4:THCの危険性については十分にわかっていない。またFDAが承認したTHCとCBDの医療利用についてはその妥当性を裏付ける研究が不足している。

ベレンソンとグラッドウェルは、科学的裏付けのないおなじみの主張を蒸し返しています — いわく、THC には毒性があり、脳に損傷を与え、この恐ろしい分子の有害性については完全には理解されていない。私たちに、大麻製品の医療効果を示す、きちんとデザインされた臨床試験は存在していないと思わせたいのです。

繰り返しますが、真実はまったく逆です。THC は、科学史上、最も広く研究されている薬の一つです。査読を通過した何百という論文が、THC と CBD の神経保護作用について述べています。THC その他の大麻成分が脳細胞を殺すというエビデンスはありませんが、脳腫瘍の細胞は殺します。基礎研究の結果は、THC と CBD を含むカンナビノイドが、哺乳動物の成体においてニューロン新生(新しい脳細胞の生成)を促進することを示しています。

THC は、厳しい試験を経て、1980年代半ばに、「マリノール」という純粋 THC 製剤として FDA の承認を得ています。この医薬品としての THC には用量のガイドラインがあり、乱用の可能性とリスクも明らかになっています。THC が FDA に医薬品として承認されるために科学者が行った研究の努力を、グラッドウェルとベレンソンは侮辱しているのです。

医薬品としての THC は、医療効果があり乱用の危険性はごくわずかとされるスケジュール III に分類されています。CBD もまた FDA 承認医薬品になっています(スケジュール V)。また大麻草に含まれる芳香成分テルペンは、「一般に安全と認められる食品(GRAS)」として FDA に承認されています。大麻草の成分のそれぞれが、何らかの形で合法であるならば、なぜ大麻草そのものは未だに非合法なのでしょう? ベレンソンやグラッドウェルに聞いても無駄です。

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注意を逸らす

ベレンソンとグラッドウェルは、大麻の合法化は、たとえそれが医療利用に限られていたとしても、若者がこの悪魔の草に手を出して悪の深淵に落ちていくのを容易にする、と信じているのです。でも、きちんと管理されて品質が統一された大麻製品の乱用の危険はほとんどありませんし、闇市場では見向きもされません

同じことが、THC と CBD を 1:1 の割合で含む舌下投与用ティンクチャー、サティベックスにも当てはまります。サティベックスは二十数か国で合法です(ただしアメリカでは合法化されていません)。マリノールと同様に、サティベックスも闇市場への流入は、あるとしてもごくわずかです。一方、「貧乏人のヘロイン」とあだ名されるオキシコンチンのような依存性の高い薬はそういうわけにはいかず、闇市場に蔓延しています。

グラッドウェルとベレンソンは、大麻が医療目的で使われる場合と嗜好目的で使われる場合で精神に与える影響の違いや、患者がその大麻製品を医師の監督のもとに入手したのか、認可されたディスペンサリーで買ったのか、あるいは闇市場で買ったのかといった違いを区別することができないか、あるいはそうする気がないようです。二人にとっては、医療目的であろうが嗜好目的であろうが、大麻はどちらも危険なのです。

ベレンソンの本を褒め称える記事の中で、グラッドウェルは、「いかなる場合も危険である」大麻を、「かつては非常に危険な発明品だったが、時代とともに徐々に安全になっていった自動車」に喩えています。でも、大麻の毒で死んだ人は一人もいないのです。それに、摂りすぎて死ぬことがない薬草を使うことと、歩行者が優先されるようになる以前の道路を金属製の箱に乗って飛ばすことには大きな違いがあります。グラッドウェルの言い分がことのほか滑稽なのは、彼の使っている喩えが、むしろ現在のオピオイド薬にぴったりだからです — オピオイド薬の過剰摂取で死ぬ人は、自動車事故で死ぬ人より多いのです。

汚染されていない大麻

大麻が公衆衛生に与える影響に関する懸念を払拭したいなら、使用を禁止し犯罪化するのとは別の方法があります。大麻その他の違法薬物に伴う危険の多くは、製品にどんな汚染物質が含まれているかに依るところが大きいのです。大麻製品は、適切な規制と徹底的な安全基準の設定によって、汚染のない、効果的な製品が生産されれば、公衆の健康に危害を及ぼす可能性はほとんどありません。

ヘンプ製品の起業家や大麻合法化活動家の多くは、この業界がしっかりと管理され、課税され、統一されることを望んでいます。臨床試験が行われ、医療保険でカバーされる高品質な大麻製品を求めているのです。そしてそれが実現するためには、大麻がスケジュール I という分類から除外され、非犯罪化されることが必要です。

怪しげな悪夢のシナリオに固執するのはやめて、物語の方向性を変え、最善の展開を想像してみましょう。さらなる大麻の研究が、まだわかっていない大麻の害を明らかにするかもしれない、と反射的に考えるのではなく、その逆のことが起きると想像するのです。研究に関する時代錯誤の制限がなくなれば、医学者たちは、さまざまな疾患について、大麻を使った治療という選択肢を開発し、有望な事例証拠や基礎研究の結果をきちんと検証することができるでしょう。

それこそが、子どもたちに自慢できる未来です。


Project CBD の寄稿者ジェイハン・マルク(Jahan Marcu)博士は、International Research Center on Cannabis and Mental Health で Experimental Pharmacology and Behavioral Research のディレクターを務める。


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