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5月24日にテキサス州ユバルデで起きた小学校での銃乱射事件の後、フォックス・ニュースの司会者ローラ・イングラムは軽率にも、犯人の「精神病的行動」を大麻使用のせいにしました。さらに、何の証拠もなく、大麻の合法化が「アメリカ人の一世代全体に」「残酷な結果を」もたらしている、と主張したのです。

イングラムの言っていることは間違いだらけですが、一つだけ正しいことがあります——大麻は人間の社会的行動に大きく影響するのです。用量、品種、その他の要因によって、大麻はさまざまな感情や行動を引き起こします。内省的で穏やかに落ち着いた気持ちになったり、陽気で嬉しくなったり、ときには不安になったり腹が立ったりすることもあります。

いずれにしろ、こうした反応を媒介するのは主にカンナビノイド受容体、中でも精神作用を持つ THC の作用標的である CB1 受容体です。そして、CB1 受容体が関与しているということは当然、より広義のエンドカンナビノイド・システム——同じく CB1 受容体と結合する内因性カンナビノイドであるアナンダミドと 2-AG、それらを生成・分解する酵素が含まれます——は人間の社会的行動の調節に重要な役割を果たしている、ということを意味します。

ただしイングラムの乱暴な発言は、しっかりした科学に基づくものではなく、常軌を逸した責任転嫁です。事実、最近発表されたある論文は、近年の大麻使用が、社会性のある「人道的な」行動や、より強い共感力と協調性、そしてより公正で人に害を与えない行動に関与していることを示しています。ここではその論文のほか、大麻とエンドカンナビノイド・システム(ECS)と向社会的行動の間にある関係についての二つの論文をご紹介します。

大麻の使用は共感力を高める

大麻の使用をめぐって現存する科学的文献は一般に、健康に与える被害、あるいは疾患の治療に関するものが多いことに注目したニューメキシコ大学の研究者は、それとはちょっと違う研究に着手しました。健常者の間に見られる、大麻の使用と向社会的行動の関係についてです。

2022年 5月に『Scientific Reports』誌に掲載された彼らの論文1 は、基本的に二つのパートからなっています:1) 18歳から 25歳の健康な大学生 146名の尿に THC が含まれているかどうかを調べ、2) 被験者に7つのアンケート調査を連続で行ったのです。

大麻使用者は「向社会的な行動」「道徳的な公正さ」「他者への無害性」そして「共感力」で非使用者に勝っていました。

尿から THC が検出されたのは被験者のほぼ半数で、彼らは「大麻使用者」、残りは「大麻非使用者」とグループ分けされました。アンケートの回答とこの二つの集団の相関関係を分析したところ、大麻使用者は「向社会的な行動」「道徳的な公正さ」「他者への無害性」そして「共感力」でより高得点を得た一方、「内集団重視」の得点が低いことがわかりました。女性に限ると、より「攻撃的」なのは大麻ユーザーでしたが、男性では非使用者よりも使用者の方が「協調性」で高得点でした。

大麻による作用がその人の気分や行動に影響するのは明らかですが、この結果は因果関係を示すものではなく、大麻の使用それ自体がこうした違いを引き起こすということを示唆するものではないという点を留意することが大切です。また、元々こうした性質を持っている人の方が大麻を使用する可能性が高いという可能性もありますし、大麻使用と向社会的な行動の両方を引き起こす他の要因があるのかもしれません。

とは言え、こうした好ましい性質のいくつかについては、大麻そのものがその背後にある重要な要素であることを示唆する分析結果がもう一つあります。男女ともに、最後に大麻を使ったのが最近であればあるほど、「向社会的に行動する」「共感力が高い」「人に害を与えない」「道徳的に公正である」そして「協調性がある」という結果だったのです。

「この結果は、大麻の使用が、社会性の向上と人道的な行動の優先につながり、それは大麻摂取後の時間の経過とともに低下するということを示している」と論文は結論しています。

動物における社会的行動の調節

ご紹介する二つめの論文は、動物実験によるエビデンスを検証したものです。『Neuroscience & Behavioral Reviews』に掲載されたこの論文2 はトロント大学の研究者らによるもので、これまでに発表された 80本の論文(うち一つはオマキザル、その他はラット、マウス、ハムスター、アレチネズミを使ったもの)を分析・総合し、いくつかの結論を導き出しています。

第一の、そして最も重要な結論は、これらの動物において “エンドカンナビノイド・トーン”(広い意味での ECS の機能)が実際に、さまざまな社会的行動や相互関係、中でも性別や年齢によって左右される「遊び」に影響を与える、ということです。それ以外の点については検証の結果は漠然としています。ECS の機能と社会的行動がどちらも複雑なものであることを考えれば、これは驚くにはあたりません。

ですが、一言で言えば、「これらの研究は一貫して、(各種の強力な合成カンナビノイドを実験的に投与することによって)カンナビノイド受容体を直接的に作動させると動物の社会的行動が減少し、酵素の働きを阻害する、あるいは遺伝子をノックアウトすることによって受容体を間接的に作動させると社会的行動が増加する、という結果を示している」と論文は述べています。

この結果を人間の社会的行動、より具体的には精神障害の治療に拡大することについては、論文は注意を促しています。「臨床研究への翻訳は自明のことでも単純なことでもない」と著者らは述べており、この分析からわかったことは、将来的に、人間を対象に行われる研究を設計する際に最も役立つかもしれません。

検証の結果は、カンナビノイド受容体の作用の間接的な上方制御を「臨床評価と臨床研究に応用すると面白いかもしれない」ことを示唆しています。これまで、多数の基礎研究が、FAAHMAGL といった内因性カンナビノイド分解酵素の薬剤による阻害について調べていますが、ECS 調節に関するこうしたアプローチは、現在のところ、臨床的にはあまりうまくいっていません。

著者らまた、「一部の研究は、社会的行動に障害をきたす疾患の症状が、大麻によってある程度緩和される可能性を示唆」しています。多数の事例証拠や、数は少ないものの増加しつつある臨床所見も、大麻由来の CBD が不安神経症をはじめとする気分障害の治療に奏効する可能性を明らかにしています。CBD はカンナビノイド受容体の直接的な作動薬ではなく、内因性カンナビノイドの再取り込みを遅らせることによって間接的に受容体を「活性化」させるのです。

社会不安障害と ECS

『Brazilian Journal of Psychiatry』誌 2022年 1月号に掲載されたレビュー論文3は、社会不安障害における ECS の役割を検証しています。アメリカ国立精神衛生研究所によれば、社会不安障害が一般的な緊張感や臆病さと違うのは「他者に監視され、批判されている、という強烈かつ絶え間ない恐れ」があるという点です。罹患の危険性は遺伝的なものである可能性があり、治療は通常、心理療法、グループによるサポート、あるいはベンゾジアゼピンや SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の投与などが行われます。

ただしこのレビュー論文の著者らは、FAAH 阻害薬を含む、エンドカンナビノイド・システムを作動標的とする薬もまた治療に役立つかもしれない、と述べています。エンドカンナビノイド・システムは、ストレス、不安感、社会的行動に関与しており、セロトニンとノルエピネフリン(神経伝達物質)、オキシトシン(ホルモン)と作用し合うからです。2020年に 149人の不安神経症患者を対象に行われた、「概念実証のための」二重盲検無作為対照試験では、FAAH を阻害するある化合物は忍容性が高く、一部の被験者においては不安感の大幅な軽減が認められました。4

研究はまだ始まったばかりですが、「全体的に見ると、ECS は社会不安障害の病態生理学的経路である可能性があり、ECS を介した新しい治療方法の開発が期待できる」と著者らは結論しています。


Nate Seltenrich は、サンフランシスコのベイエリアに住む科学ジャーナリスト。環境問題、神経科学、薬理学を含む幅広いテーマについて執筆している。

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参照文献

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