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ある人が、大麻という言葉と ADHD(注意欠如・多動症)という言葉を一つの文章の中で一緒に使うのを初めて聞いたときのことを覚えています。私はスペイン南部の街のカンナビス・クラブのメンバーになったばかりで、ある日そこにいた人たちとお喋りをしていました。大麻の医療利用に関して職業柄関心があると私が言ったことに対する反応の中でそんな発言があったのかもしれません。いずれにしろ、少なくともその人にとっては、ADHD の症状をコントロールするために選んだ方法が大麻の喫煙だったのです。

精神科医、あるいは薬物依存症治療の専門家という立場から見ると、知り合ったばかりのその人は、臨床的に重大な障害が起きているにもかかわらず大麻を使用し続ける、というのがその定義である「大麻使用障害(Cannabis Use Disorder, CUD)と診断されてもおかしくなかったと思います。

これまで大麻と ADHD の関係について行われてきた研究のほとんどが、ADHD を抱える若者にとっての大麻の有害性を強調しようとしたものであったことを考えれば、これはさして驚くにはあたりません。

ADHDとは何か?

注意欠如・多動症というのは神経学的疾患の一つで、通常子どものときに発症し、注意力の欠如、活動過剰、衝動性が特徴です。ADHD は3つのサブタイプに分かれ、主に活動過剰と衝動性を特徴とするもの、主に注意力の欠如が特徴のもの(以前は注意欠陥障害 [ADD] と呼ばれていました)、その2つが組み合わさったものがあります。

主流派の医療科学においては今でも、大麻は ADHD の症状に悪影響を及ぼす、という未証明の考え方に固執しているように見えます。

アメリカでは、子どもの 11%、成人の 5% に ADHD があると考えられています2 。このことは、半数の子どもは ADHD を「卒業」するということを示唆しているものの、成人になっても ADHD を抱えている人も相当数いる、ということになります。

ADHD と診断された子どもは、後年 CUD を発症する確率が、そうでない子どもの2倍1 ですが、彼らはまた、ADHA でない子どもと比べてコカイン、ニコチン、酒など大麻以外の物質の使用障害を発症する傾向も高くなっています。

ところが、大麻は乱用されることが最も多いものとして特に名指しされ、それと同時に、ADHD の人が大麻を使うのはすべて乱用であり使用を中止すべきである、という仮定があります。これには疑問を感じます。

物事は何でもそうですが、ADHD と大麻の関係には対立する二つの考え方の中間を取る妥協点が存在します。つまり、大麻を治療目的で適度に使用し、ADHD の症状としてありがちな侵入思考、集中力の欠如、極度の認識・知覚力などを制御するために適度に使用する、ということです。

じっと座っていられない

アイルランドの 35歳のジャーナリスト、キャロライン・バリーが ADHD と診断されたのは 10歳のときでした。

「自分の注意力をコントロールすることができないんです。だから学校の授業もうわの空だし自制が効かないことが多くて。宿題をせずに登校したり、カバンの中に筆記用具や教科書が入っていなかったり。じっと座って自分の番を待つということができないの。いつも突拍子のないことを言って、活動過多でした」とキャロラインは回想します。

キャロラインにとって、細部に注意を払うことが重要なジャーナリストという仕事には困難がつきまといます。「しょっちゅうミスをするわ。すごく馬鹿げた間違いをするの」とキャロライン。「ADHD で不注意なせいよ。ものすごくイライラするけど、どうしようもないの」

自閉症スペクトラム障害と同じように、成人の ADHD 患者の多くは、精神的なプレッシャーや外界からの刺激に圧倒されると言います。

「常に動いていなければいられなくて文字通り体が震えるように感じるエネルギー過剰の状態と、その正反対の、周りの環境や雑音にものすごく圧倒されてしまう状態を行ったり来たりするんです」とキャロラインは言います。

実際に自閉症スペクトラム障害は、不安神経症、トゥレット症候群、睡眠障害、うつ病、PTSD など、ADHD のさまざまな併存疾患の一つです3。そしてたまたまそのすべてが、医療大麻に良い反応を示します。

イギリスに住む精神科医ニーラジュ・シングは神経発達障害が専門で、日常生活を破壊する ADHD という病気のために仕事が長続きしなかったり健全な人間関係を維持できなかったり、ということを始終目にしています。

「場合によってはそれが実際に犯罪につながることもあるんです。患者がセルフメディケーションのために、アンフェタミンとか、その他の薬物を手に入れることもしょっちゅうです。そしてその中に大麻も含まれています。それがとても悪い方向につながることがあります。病気がなければ比較的安定した生活を送っていたかもしれない、能力の高い人たちがですよ」

ドーパミン不足

ADHD と診断された子どもは往々にして、行動療法を受けることが多く、年齢によって、メチルフェニデードの一種であるリタリンや、アンフェタミンの一種であるアデロールといった医薬品を投与されます(いずれも精神刺激薬)。

活動過多の子どもや成人にアンフェタミンを処方するというのは直感的には矛盾するように聞こえるかもしれませんが、一見すると狂気に思える刺激薬の投与には決まった手法があります。

低用量の THC はドーパミンの量を補完するように見えますが、高用量の THC はドーパミンの産生量を減少させます。

研究によれば、ADHD の発症と、学習や正常な認知過程を助ける神経伝達物質、ノルエピネフリン(副腎髄質ホルモン)4 およびドーパミン5の不足の間には相関関係があります。

ドーパミンは人体の報酬系と関係があり、私たちが、食べ物、セックス、買い物、SNS で「いいね」をもらう、コカインのような嗜好用麻薬など、快感を感じるときに放出されます。そして ADHD の患者においてはしばしば、ドーパミン神経系が正常に機能せず、リタリンといった ADHD の薬はこれを作動標的としています。

シング医師は、「ドーパミン神経系は、フォーカス、集中力、報酬を司り、それによって脳の実行機能(計画、タスクシーケンス制御、判断などの能力)に影響を与え、さらに記憶や感情の制御にも影響します。これらの刺激薬は基本的に、前頭葉の細胞におけるドーパミンの産生を促し、患者からは症状がかなり改善されたとの報告があります。つまり、注意が散漫にならず、より集中でき、より落ち着けるのです」と説明しています。

ドーパミンとTHCとエンドカンナビノイド・システム

ほとんどの神経伝達物質に対してエンドカンナビノイド・システム(ECS)が持っている調節作用について現在わかっていることを考えれば、ADHD の患者のドーパミン産生が不十分であることと ECS の機能不全の間に関係がある可能性について研究されているのは驚くにはあたりません。

ドーパミンと ECS の間には双方向的な関係があると考えられています——つまり、片やドーパミンが脳線条体内での内因性カンナビノイド放出を促進させることがわかっている一方、エンドカンナビノイド・システムは、CB1 受容体に結合する内因性カンナビノイドを逆行的に放出することによって、ニューロンからの過剰なドーパミン放出を抑制するのです6

ADHD の行動と ECS の間に直接的な繋がりがあるということは、ドーパミン輸送体(DAT)を変異させた ADHD のマウスモデルで CB1 受容体のシグナリングが大幅に減少することが発見された研究によって明らかにされていました。そのことに基づいて研究者らは、「ECS への干渉が ADHD に奏効する」という仮説を立てました。

そこで思い起こされるのが、大麻草に含まれる主要な精神活性化合物であり、CB1 受容体の作動薬であるテトラヒドロカンナビノール(THC)です。

THC を豊富に含む大麻を摂取することで得られる快感は、一つにはドーパミンの放出によってもたらされるものと考えられています。カンナビノイドの多くがそうであるように、THC の作用は用量依存型で、低用量を摂取するとドーパミンの量を補い、高用量を摂取するとドーパミンの産生量を減少させます8

また、急に THC を摂るとドーパミンの放出量が増加するのに対し、長期的な大麻の使用はドーパミン神経系全体の作用を鈍くさせるという違いがあります。ADHD 患者の多くが、高 THC の大麻草はアデロールやリタリンと同じように ADHD の症状抑制に役立つ、と言うのはこれが理由かもしれません。ただ同時に、高用量の THC を長期にわたって摂取し続けるのは逆効果であり、大麻使用障害につながる可能性もあります。

集中力を取り戻す

大学生だったキャロラインが大麻を試し始めると、集中力が高まることがわかりました。「気に入ったのは、何か一つのことに集中できるようになったということです。ADHD の人は、音や匂い、どこに何があるかなど、身の回りのあらゆることを異常なまでに認知するんです。人がいる部屋の中でものすごく奇妙なパターンに気がついたりね。大麻を吸うとそういう傾向が静まって、一つのことに集中できるようになります」

最近は、何かに圧倒されてそれ以上耐えられなくなったときにキャロラインは大麻を使います。「そういうときに大麻を吸うと、気持ちが少し静まって、ソワソワと落ち着かない過剰なエネルギーを手放すことができ、その後に集中力がとても高まるんです」

“大麻のおかげで集中できるようになりました”

大麻は集中力の欠如その他 ADHD に伴う症状を悪化させるどころか改善してくれる、と無数の患者が証言しているにもかかわらず、主流派の医療科学においては今でも、大麻は ADHD の症状に悪影響を及ぼす、という未証明の考え方に固執しているように見えます。

ある研究では、大麻の使用が、標準的な意思決定(Go/No Go)課題において不適切な反応をうまく抑制するのに役立つかどうかを調べました9

その結果、大麻を使用しても間違いの数は変わらず、間違った回答はむしろ、経営管理能力、作業記憶、抑制制御、集中力に関与する脳の部位である前頭・頭頂・線条体ネットワークの活動が低下していることが原因であることがわかりました10

興味深いのは、大麻を使用した ADHD の患者集団では、不適切な反応の抑制に成功した際に、海馬における漸増反応がより大きかったという点です。これがなぜ起きるのかはまだわかっていませんが、論文の著者は、ドーパミンの放出を調節する海馬における CB1 受容体の活性化がそれを解明する手がかりになるのではないかと推測し、カンナビノイドがある種の代償的な神経可塑性を誘導しているのではないかと示唆しています。

同じように、別の研究を行った研究者は、子どものときに混合型 ADHD と診断された者、されなかった者を含む 21歳から 25歳の若者 75名において、大麻を頻繁に使用しても ADHD の症状が悪化しなかったことに驚いています11

臨床的エビデンス

残念ながら、大麻が ADHD の治療に奏効することを証明するしっかりした臨床的エビデンスはほぼないと言っていいでしょう。 事実、過去と現在に行われている、また現在被験者募集中のすべての臨床試験を集めたデータベースである ClinicalTrials.gov を見ると、ADHD についての臨床試験は一つしかありません——30人の ADHD 患者を被験者としてサティベックス(THCCBD 比が 1:1の製剤)を投与したもので、結果はぱっとしません12

最も有望な結果はおそらく、ドイツで行われた研究で、2012年から 2014年まで、大麻の使用を許可された ADHD の成人患者 30人の診療記録が分析されました13。それらの患者のほとんどは過去に、リタリンなどを使った標準治療を受けていましたが効果はありませんでした。ところが、大麻のみの使用によって 73% の患者が ADHD の症状を十分に管理し、仕事や人間関係に参加することができるようになり、47% が集中力の向上に気付きました。ただし、この結果は 2015年の International Cannabinoid in Medicine & Research Conference においてポスターとして展示されたのみで、査読を経て学術誌に発表されたものではないことを付記しておきます。

この小規模な母集団を対象とした調査から得られた結果はたしかに、多くの ADHD 患者、そして彼らに大麻を処方する勇気ある医師たちの体験を表しているように見えます。

ニーラジュ・シング医師は、1年半前に医療大麻を患者に処方するようになって以来、患者に非常に良い結果が現れるのを見てきています。残念ながらイギリスでは医療大麻は、国民健康保険を通して、多発性硬化症と希少な小児てんかんのみを対象として処方されます。したがってシング医師は、ADHD の患者には自主診療でしか大麻を処方することができず、また処方は患者がまずあらゆる標準治療を試して奏効しなかった場合に限られます。

シング医師が最近診察したある患者は、最初の診察ではソワソワと落ち着きがなく、仕事も私生活もうまくいっていませんでした。そのわずか5週間後、その患者は別人のようになっていました。「ニコニコして、何もかもが良い方向に変化した、と言いました。仕事は改善され、上司は彼の仕事ぶりが進歩していると言って彼を褒めたそうです。彼の妻はその変化を非常に喜び、昔の彼が戻ってきたと言いました。医療大麻が人の人生にどれほど大きな影響を与えるか、まったく驚きですよ」

核心を突く

シング医師はまた、大麻の処方が、特定の神経伝達物質や系統を作用標的とする他の医薬品と比べていかに幅広い薬効があるかということにも感銘を受けました。

「何よりも素晴らしいのは、医療大麻は実にさまざまな、幅広い疾患の治療に使えるということです。なぜなら医療大麻は問題の核心に届くからなんですよ….。私が気に入っているのは、これが ADHD の治療薬、こっちはトゥレット・シンドロームの薬、ということではなく、これ一つあればいいということです。キャッチオールなんですよ。

「医療大麻が人の人生にどれほど大きな影響を与えるか、まったく驚きですよ」——シング医師

もう一つ、シング医師が経験した意外な効果に、患者の全体的な健康状態(たとえばリタリンのようなアンフェタミン薬を長期的に使用すると心臓を傷める危険性があります)について監視の目を光らせる必要性が低減したことがあります。「毎日のように血圧や心拍数を測らなくていいんですよ。これは実際、非常に斬新なことです」とシング医師は言います。

精神疾患あるいは神経発達障害の治療ということになると、医療大麻の処方には必ず反対する人がおり、ADHD につぃてもそれは同様です。これまで行われてきた研究は主に、長期的な大麻の使用と ADHD の症状の悪化の関係についてのものであり、処方する医師の監督の下で医療目的で使った大麻が ADHD 患者にどのように奏効したかを記録するものではなかったことを考えれば、これは驚くにはあたりません。

かすかな希望の光と言えば、イギリスで処方された医療大麻の効果と忍容性に関するエビデンスを集めている患者の登録簿、Project Twenty21 に含まれる適応症リストに、間もなく ADHD が加わるということです。

もしかすると、実際の患者のエビデンスがもっと増えるにつれて、医療従事者が患者の経験を、所詮大麻依存症の言うことだ、と軽視することもなくなり、適切に使えば ADHD の患者がその過酷な心の中の世界とうまく付き合うのを安全な形で助けることができる、という可能性を受け入れるようになるのかもしれません。


イギリス在住のメアリー・バイルズ(Mary Biles)は、ジャーナリストであり、エデュケーターであり、Project CBD の寄稿者で、著書に『The CBD Book』(Harper Collins, UK)がある。

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参照文献:

  1. Steve S. Lee et al. Prospective association of childhood attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD) and substance use and abuse/dependence: a meta-analytic review. Clin Psychol Rev 2011 Apr;31(3):328-41.
  2. Centers for Disease Control and Prevention. Ed. Center for Disease Control. Centers for Disease Control and Prevention, 14 Feb. 2017. Web. 14 Mar. 2017.
  3. Comorbidities. ADHD Institute.
  4. Natalia del Campo et al. The roles of dopamine and noradrenaline in the pathophysiology and treatment of attention-deficit/hyperactivity disorder. Biol Psychiatry 2011 Jun 15;69(12):e145-57.
  5. Nora D. Volkow, MD et al. Evaluating Dopamine Reward Pathway in ADHD. JAMA. 2009;302(10):1084-1091.
  6. Giovanni Hernandez et al. To Act or Not to Act: Endocannabinoid/Dopamine Interactions in Decision-Making. Front. Behav. Neurosci., 17 December 2015
  7. Maura Castelli et al. Loss of striatal cannabinoid CB1 receptor function in attention-deficit / hyperactivity disorder mice with point-mutation of the dopamine transporter. Eur J Neurosci 2011 Nov;34(9):1369-77.
  8. Michael AP Bloomfield et al. The effects of Δ9-tetrahydrocannabinol on the dopamine system. Nature. 2016 Nov 17; 539(7629): 369–377.
  9. Jerod Rasmussen et al. ADHD and Cannabis Use in Young Adults Examined Using fMRI of a Go/NoGo Task. Brain Imaging Behav. 2016 Sep; 10(3): 761–771.
  10. Marc F Schneider et al. Impairment of fronto-striatal and parietal cerebral networks correlates with attention deficit hyperactivity disorder (ADHD) psychopathology in adults – a functional magnetic resonance imaging (fMRI) study. Psychiatry Res 2010 Jul 30;183(1):75-84.
  11. Clare Kelly et al. Distinct effects of childhood ADHD and cannabis use on brain functional architecture in young adults. NeuroImage: Clinical Volume 13, 2017, Pages 188-200.
  12. Ruth E Cooper et al. Cannabinoids in attention-deficit/hyperactivity disorder: A randomised-controlled trial. Eur Neuropsychopharmacol 2017 Aug;27(8):795-808.
  13. Franjo Grotenhermen et al. Successful authorised therapy of treatment resistant adult ADHD with Cannabis: experience from a medical practice with 30 patients. Presented at International Cannabinoid in Medicine & Research Conference 2015 in Sestri Levante (GE), Italy.

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