クマと冬眠と
エンドカンナビノイド・システム

クマと冬眠と
エンドカンナビノイド・システム

エンドカンナビノイド・システムが周囲の状況に適応する能力と冬眠には関係があるようです。
エンドカンナビノイド・システムが周囲の状況に適応する能力と冬眠には関係があるようです。

クマは地球上で最も大きくパワフルな動物の一つです。また高い知能を持っています。道具を使い、驚くほど嗅覚が鋭く、視力・聴力に優れ、そして食べるものが少ない過酷な冬の間は眠って過ごします。

冬眠中のヒグマは、最長7か月間をねぐらの中で、飲まず食わずで過ごします。なぜかヒグマの身体は排泄物をリサイクルすることができ、排糞も排尿もしません。深い眠りとは異なる「torpor(休眠)」と呼ばれる状態になると、クマの代謝と心拍は大幅に遅くなって、周囲からの刺激を感知することはできますが目は覚ましません。どうしてそんなことが可能なのでしょうか?

柔軟な代謝

最近『Frontiers in Zoology』誌に発表された論文は、冬眠する動物の代謝機能の柔軟性について、新しい知見を提供しています。ノルウェー、スウェーデン、フランスの研究者チームが、ヒグマのエンドカンナビノイド・システム(ECS)が季節によって変化し、それが冬眠中の生理機能の適応の背後にあることを突き止めたのです。ECS は、摂食、エネルギーの貯蔵と消費、睡眠パターン、発汗、心拍その他、動物の冬眠中に起きる代謝・行動・概日リズムの調節に役立つ重要な生物学的過程を司っています。

エンドカンナビノイド・トーンが変化することはすでに小動物では立証されていましたが、身体が大きい冬眠動物については立証されていませんでした。Boyer et al(2020)によれば、冬眠中のヒグマでは ECS 全体の働きが下方制御されますが、それには体内に存在する内因性カンナビノイドとその他の脂質神経伝達物質、カンナビノイド受容体の活性、そして ECS に関係する遺伝子の発現の変化が関与しています。

この論文では、冬眠中のクマと夏季の活動中のクマにおける、脂肪酸組成の変化を記録しています。冬眠中のヒグマには次のようなことが起こります。

  • 筋肉と脂肪組織において、それぞれ CB1 および CB2 受容体の信号伝達が減少する
  • 筋肉と脂肪組織におけるアナンダミドと 2AG(内因性カンナビノイドのうち主要な2つ)量の低下
  • 脳が健全に機能するために欠かせないオメガ3脂肪酸、DHA(ドコサヘキサエン酸)の血中濃度が低下
  • 空腹感を抑制する内因性カンナビノイド様化合物、OEA(オレイルエタノールアミド)の血中濃度が3倍に上昇

OEAPPAR-alpha

分子構造に関して言うと、OEA はアナンダミド(N-アラキドノイルエタノールアミド)と非常に関係の強い脂質化合物ですが、アナンダミドと違って ECS 経路とは無関係に働きます。OEA は 体内で産生され、細胞核の表面にあって摂食と体重を調節する受容体、PPAR-alpha と高い親和性を持つ作動薬です。

アナンダミドは CB1 受容体と結合して食欲を増強させますが、OEAPPAR-alpha と結合して食糧摂取量を減らします。OEA はまた、絶食によるケトン生成を通じて脂肪を栄養に変換し、蓄えられたエネルギーを活用する代謝プロセス(リポリーシス、脂肪分解)を刺激します。

CB1 受容体の活性の低下に OEA の血中濃度の上昇が加わることで、冬眠中のヒグマは休眠中、物を食べずに生存し続け、同時に周囲からの刺激を感知することができるのです。

論文は、「ECS の総合的な抑制の他、内因性カンナビノイドの季節に伴う変化が、冬眠中一度も覚醒せず、かつ外界の撹乱に反応が可能であるというクマの奇妙な特徴と関係しているのかもしれない」と推察しています。

「クマを突付くな」

「クマを突付くな」という言い回しがあります。これは実際には、冬眠するクマのことではなくて人間のことを指しています。怒ったり暴力的になったりする可能性のある人、とりわけ、権力や権限を与えられた立場にいる短気な人を、わざわざ挑発したり敵に回したりするな、という率直な警告です。

もしも人間が、冬眠中のクマのように外界の騒動に反応しないようにできていたら、突付かれてもそれほど反応しないのかもしれません。でも人間は冬眠しませんし、COVID が蔓延し、死者が増え続け、世界中に飢餓が広がる恐ろしい冬を眠ってやり過ごすこともできません。

先ごろ『L’Anthropologie』に掲載された論文(Arsuaga and Bartsiokas, December 2020)によれば、どうやら私たちと違ってヒト科の祖先たちには、厳しい冬と食糧不足を「代謝を遅らせ何か月も眠り続けることで」耐える適応性があったようです。

この論文の著者の二人が、スペインで発見された初期人類の化石化した遺骸を分析したところ、骨の成長に季節的な変動が見られ、これは冬眠する動物の特徴だというのです。著者はこれが「サイエンスフィクションのように聞こえるかもしれない」と認めていますが、キツネザルや数種の霊長類を含む多数の哺乳動物は冬眠することが知られている、と指摘します。「このことは、こうした代謝低下に必要な遺伝的基礎と生理機能が、人間を含むさまざまな哺乳動物の中に維持されてきた可能性を示唆する」と論文は述べています。

科学者らは、新たに発見されたこの考古学的証拠に基づいて、ヨーロッパに存在した初期の人類が、「わずかな食糧と十分に蓄えられた体脂肪で、厳寒の環境を長期間生き抜くのに役立つ代謝状態」になることができたのではないか、という仮説を提唱しています。つまり、昔の人間は冬眠したのです。



Martin A. Lee は Project CBD のディレクターであり、『Smoke Signals: A Social History of Marijuana – Medical, Recreational and Scientific』の著者。
 


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参照文献:

  1. Antonis Bartsiokas, Juan-Luis Arsuaga, “Hibernation in hominins from Atapuerca, Spain half a million years ago,” L’Anthropologie, Volume 124, Issue 5, 2020 (online 27 November 2020). https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0003552120300832
  2. Christian Boyer, et al, “Specific Shifts in the endocannabinoid system in hibernating brown bears,” Frontiers in Zoology, 2020 Nov 23. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/pmid/33292302/
  3. Robin McKie, “Early humans may have survived the harsh winters by hibernating,” The Guardian (UK), 20 Dec 2020. https://www.theguardian.com/science/2020/dec/20/early-humans-may-have-su…

 

Revision date: 
12月 21, 2020

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