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初出 High Times(2017年2月号)

「これで何もかもが変わる」— オークランドにあるスティープ・ヒル・ラボラトリーのオフィスに立ち、無名の大麻品種に耳慣れないカンナビノイドが含まれていることを示すクロマトグラムを目にしたフレッド・ガードナー(Fred Gardner)の第一声だった。2009年のことだ。”Soma A-Plus” と呼ばれる、その興味深くも奇妙な品種は、それまでスティープ・ヒルがカリフォルニア州の医療大麻ディスペンサリーや栽培家のために検査してきた何千というバッズの検体と違って、ハイを引き起こすことで知られる THC(テトラヒドロカンナビノール)の含有量が少なかった。

“Soma A-Plus” を皮切りに、間もなく、興味深い医療効果を備えた化合物、カンナビジオール(CBD)を含有する大麻品種がいくつか発見された。その中の一つ、”Women’s Collective Stinky Purple” は、乾燥重量で 10% を超える CBD を含み、THC はほとんど含まれなかった。これはもはや単に遺伝子異常のあるヘンプではなかった — これは薬草だ。医療効果のあるネバネバした樹脂をこぼれんばかりに含む、高 CBD の品種が見つかったのである。喫煙したり、エディブルとして食べたりしてもハイにはならない。なぜなら CBD には THC のような精神作用がないからだ。それどころか、特定の品種や製品に含有される比率によっては、CBDTHC が引き起こす「ハイ」を、弱める、あるいは相殺することさえできるのである。

昔、ハシシを作るために栽培された大麻草には、THCCBD がおよそ同量ずつ含まれていた。だが 1970年代後半以降、北カリフォルニアの無法者育種家たちが、よりハイになれる、THC 優位の品種を求める消費者の声に応えようとするにつれて、大麻の遺伝子は変化していった。その結果、アメリカの大麻の主要生産地であるエメラルド・トライアングルからは、CBD の姿はほとんど消えていたのである。

カリフォルニア州で、医療大麻を合法化する州法 Prop 215 が可決されたとき、CBD のことを知っている者は皆無に近かった。誰もその存在を認識していなかったのだ — 大麻成分の分子機構と医療効果について研究している、ごく少数の先駆的な研究者たちを除いて。初期の研究では、CBDに、注目に値するだけの抗炎症作用、抗腫瘍作用、抗精神病作用、そして抗けいれん作用があり、有害な副作用はないということが示されていた。

フレッド・ガードナーはそれまで、大麻の医療利用に関するジャーナル『O’Shaughnessy’s』誌上で CBD の科学について伝えていた。2010年、フレッドと私は Project CBD を創設することとなる — 研究、患者、医師、新しい品種や製品、ビジネスにいたるまで、この CBD 現象全体について記録し発信する、教育のための非営利団体である。設立当初から私たちは、CBD が、医療大麻合法化運動を抜本的に変化させられるかもしれないと感じていた。薬物乱用という枠組みに押し込められた大麻を、そこから解放する決め手となるのではないかと思ったのだ。いかな屁理屈をこねる麻薬取締局と言えども、安全で副作用がなく、ハイになることすらない薬剤の使用を禁止しておくことなど、正当化できるはずがないではないか?

CBDを含む製品の登場は、ハイになることに関心がない人々を含め、これまでよりずっと多くの人たちが健康のために大麻を使う機会ができる、ということを意味していた。THC が引き起こす「ハイ」が好きな人ばかりではない。大麻を吸うとイライラしたり不安になる人もいる。CBD が豊富な大麻なら、ハイになることなしに大麻の健康効果にあずかりたい人の願いに応えられるかもしれない。私たちはこれを、「high CBD」とは呼ばず、「CBD-rich」な大麻、と呼ぶことにした。ハイという言葉と関連付けないためだ。以来、査読を経て発表される研究論文でもこの呼び方が使われるようになった。

転換点

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soma a plus

北カリフォルニアで偶然に CBD が再発見されたことが、大麻愛好者から警察まであらゆる者の世界を覆し、医療大麻の新時代が始まった。決定的な転換点は、2013年夏、CNN がサンジェイ・グプタの医療大麻についてのレポートを放映したことだった。今や有名になった、ドラベ症候群に苦しむコロラド州の少女シャーロット・フィギーについてのドキュメンタリーである。

幼いシャーロットは、週に何百回というけいれん発作があり、処方薬が奏効しなかった。打つべき手が尽きたと思ったとき、シャーロットの両親は、カリフォルニア州で高 CBD の大麻オイルが奏効したドラベ症候群の男の子の話を耳にした。彼らはコロラドのディスペンサリーで、CBD 含有量が高く THC 含有量が低い品種を見つけ、それが魔法のようにシャーロットに効いたのだ。シャーロットの発作は月に数回に減った。この品種は、今では彼女を記念して「シャーロッツ・ウェブ」と呼ばれている。

突如として CBD という魔神は魔法の壷から解き放たれた。テレビを見た全国の視聴者は、自分が目にしたものに驚愕した — かつて「若者を殺す」と罵られたマリファナが、重病の子どもを救うとは。しかも医療大麻を使えば、大人も子どもも、ハイにならずに病気が治るというのである。この CNN の番組放映によって、大麻が持つ医療効果を陶酔感あるいは不快な精神作用なしに享受できるという可能性が、多くの人にとって抗いがたい魅力であることが明らかになった。

だが、健康に良いものとしてのカンナビジオールの認知率が高まると同時に、先史時代から人間とともにあった素晴らしい植物、大麻草についての誤った認識もまた急増した。大麻草には、繊維、食物、薬の原料として、世界各地で何千年も前から使われてきた長い歴史がある。ところがマリファナ禁止法によって、私たちと大麻草のつながり、多目的に使える民間療法としての大麻に関する知識は断絶されてしまったのだ。だから私たちは、大麻とのつながりを取り戻し、その医療効果を最大限に利用する術を再び学び直さなければならないのである。

こう思う人もいるかも知れない — でっかいジョイントを巻いて吸うだけの話ではないのか? それで問題が解決する人も多いようではあるが、実際には、現在では非常に強力な大麻抽出オイルがあり、THCCBD の比率も摂取方法もさまざまで、非常に複雑になっている。大麻の医療効果をいかにして引き出すかは、未だ解明の途上である。それが、近年各州で運用されている、医療大麻制度という壮大な大衆参加型の実験の背後にある原動力なのだ。

決定的なブレークスルー

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cbd breakthrough

アメリカでは長きにわたって、大麻草が違法であることが科学的な研究の足枷となってきた。皮肉なことだが、医療大麻の科学的な理解を進展させたのは、1980年代に麻薬没滅戦争を拡大・過激化させたロナルド・レーガン大統領である。レーガン政権は、何千万ドルという予算を投じて、大麻が脳を損傷することを決定的に証明するための研究を行った — 少なくとも、彼らはそのつもりだった。なんとなれば、大麻は悪魔の植物であり、マリファナを吸うと脳にダメージが起きる、というのは、麻薬撲滅戦争を展開する政権が拠って立つ信仰箇条だったのである。

ところが研究の結果は、マリファナがいかにして脳に損傷を与えるかを示すどころか、レーガン政権は結果的に、「エンドカンナビノイド・システム」の発見につながる一連の研究に助成金を提供したこととなった。エンドカンナビノイド・システムは、損傷を与えるどころか、THCCBD といった植物性カンナビノイドによって活性化されるとむしろ脳に対する保護作用を発揮する。この画期的な発見は、人間に関する生物学の新しい展望を開き、大麻がなぜ、どのようにして多様な医療効果を発揮するのか — そしてなぜ大麻が地球上最も人気のある違法薬物であるか — の解明に大いに寄与することとなった。

1990年代半ばになる頃には、世界中の科学者の間でエンドカンナビノイド・システムはホットな研究課題となり、彼らの研究の成果は非常に専門性の高い、論文審査のある専門誌上で、あるいはできたばかりの International Cannabinoid Research Society の年次学術会議の場で共有された。以来、怒涛のような科学的データが、CBD をはじめとするカンナビノイド化合物が持つ驚異的な医療効果を証明している。

1998年に国立衛生研究所の出資で行われた基礎研究をもとに、アメリカ政府は CBDTHC が持つ抗酸化作用と神経保護作用の特許を取得した。「脳卒中や外傷などの虚血性障害によって引き起こされる神経損傷を抑える」ということがわかったのである。CBDTHC はともに、「アルツハイマー病、パーキンソン病、HIV に伴う認知症といった神経変性疾患の治療において特定の適用が可能」とされている。

CBD について言えば、適応症はそれ以外にも多々ある。たとえば急速に拡大中の医療大麻という研究分野で目立つ領域には次のようなものがある。

  • がん: カリフォルニア・パシフィック・メディカルセンターがヒトの細胞株を使って行った研究では、CBD が乳がんのがん細胞の増殖・浸潤・転移を抑えた。
  • 糖尿病: イスラエルの研究で、CBD が「非肥満糖尿病マウスにおける糖尿病発生率を低減させる」ことがわかった。
  • てんかん: イギリスの研究者は、CBD がてんかんの動物モデルにおいて抗けいれん作用を示したと報告している。
  • 気分障害: ブラジルの研究者は、CBD が持つ強力な抗精神病作用と抗不安作用の研究を行っている。
  • ニキビ:『The Journal of Clinical Investivation』誌に 2014年に掲載された論文には、「CBD が尋常性座瘡の治療薬として有望である」と書かれている。
  • 不整脈: 『The British Journal of Pharmacology』(2010年)は、動物実験においてCBD が脳卒中による心不整脈を抑制し、脳損傷のサイズを減少させると明らかにした。
  • 幹細胞新生: ドイツの研究者は、CBD が、哺乳類の成体において脳細胞の新生を促すことを発見した。
  • 抗菌作用: アメリカ化学会(American Chemical Society)が発行した『Journal of Natural Products』誌(2008年)によれば、CBD は「さまざまなメチシリン耐性黄色ブドウ球菌株(MRSA)に対して強力な抗菌活性を示した」。世界保健機関(WHO)は、抗生物質の効かない細菌を、世界が直面する重大な健康危機としている。
  • 狂牛病: 「プリオン」と呼ばれる変形タンパク質によって感染する恐ろしい病気、牛海綿状脳症には治療法はないが、フランスの研究者は『Journal of Neuroscience』誌に、「CBD は、プリオンに感染すると起きる神経変性のさまざまな過程に関与する複数の分子的因子および細胞性因子からニューロンを保護する可能性がある」と発表した。

まだある。リュウマチPTSD、うつ病、消化器疾患、肥満、アルコール依存症、肝臓疾患…..。豊富な基礎研究と増え続ける症例報告が、上に挙げた疾患だけでなくさらに多くの疾患に CBD が奏効することを示唆しているのである。

パワーカップル:CBDTHC

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cbd thc power couple

カンナビジオールをめぐる人々の興奮ぶりにはもっともな理由がある。だが現在までのところ、CBD の医療効果を「証明」できる臨床試験は、アメリカにおいては、薬物撲滅戦争のおかげで不足している。そのため、科学者が CBD について知っていることのほとんどは、人間を対象とした研究ではなく、主に実験室内での基礎研究 — 動物実験、分子プローブ、試験管を使った実験その他 — に基づいている。こうした研究の中には、エンドカンナビノイド・システムと、それが健康や疾患において果たしている役割についての非常に重要な知見をもたらしたものもある。だが、動物モデルから得られるデータは必ずしも人間に当てはまらない。

アメリカの国外に目を向けると、高 CBD の治療薬は徹底的な臨床試験の対象となり、二十数か国で医療利用が認められている。CBDTHC を同量ずつ含む舌下スプレー、サティベックスは、神経性疼痛と多発性硬化症のけいれんの治療薬として処方が可能である(ただしアメリカでは未承認)。サティベックスを製造するイギリスの製薬会社 GW Pharmaceuticals は、疼痛管理においては、CBDTHC の組み合わせが、それぞれを単独で使用するよりも効果的であることを突き止めている。

簡単に言えば、CBDTHC は医療大麻におけるパワーカップルだ。この2つは一緒になってこそ最大の効果を発揮するのである。CBDTHC は、それぞれ脳内の異なった受容体を活性化させることによって互いの治療効果を強め合う。医療大麻の患者にとっては、この相乗的な関係こそが何よりも重要だ。だからこそ、CBD に秘められた医療効果を最大限に引き出すためには THC が重要であり、その逆もまた真なのである。

医療大麻のディスペンサリーでは、さまざまな CBDTHC の比率を持つ濃縮大麻オイルが手に入るので、患者は必要に応じて精神作用を調節したり排除したりできる。2つがほぼ同量ずつ含まれている品種または製剤では、CBDTHC による陶酔作用の程度を弱めながらその効果を長引かせる。昨今は、ごく微量の THC しか含まない CBD 製品を使って、ハイになることなく治療するという選択肢もある。ただし、THC の含有量が少ないオイルや花穂は、たしかに陶酔作用はないが、必ずしも治療法としてベストではない。

CBD の治療薬について、ある人に最適な THC の含有比率と用量を決める際には、その人の THC 感受性が大きな要因となる。万人に合う比率や用量があるわけではない。医療大麻とは、個々人に合わせたオーダーメード医療なのだ。患者は自分で色々試し、必要ならば治療計画を調整して、CBDTHC のバランスがちょうどいい、自分に最適のところを見つけなければならない。目指すべきゴールは基本的に、その人が心地よい範囲内でできるだけ多くの THC を含む高 CBD 製剤を、きちんと測れる一定した用量で摂るということだ。

しっかりした医療大麻制度が整備された州に住んでいる幸運な人なら、高 CBD の大麻を喫煙以外の方法で摂取する方法はたくさんある。ハイになるタイプの製品と同様に、高 CBD の大麻にもまた、食品、飲料、カプセル、舌下スプレー、ティンクチャー、局所薬、経皮パッチ、座薬、その他さまざまな形状がある。特に大麻の初心者にとっては、選択肢がありすぎて混乱するかもしれない。

大麻業界の大部分はまだ規制監督が行われていないので、製品の安全性については大きな懸念が残る。残念ながら、含有カンナビノイド量を高め収穫量を増やすために、殺虫剤や怪しげな植物ホルモンを使っている大麻栽培農家も多い。高 CBD 製品を入手する際には、検査ラボの検査を受け、カビ、殺虫剤、残留溶剤その他の汚染物質が混入していないことが確認されているものを探そう。さらに、可能であれば、ブタン、ヘキサン、その他有毒な溶剤を使って抽出されたものではなく、食品グレードのエタノールや超臨界 CO2 など、より安全な抽出方法を使ったものを選ぶべきだ。高品質の CBD 製品は、原材料のすべてが高品質でなくてはならない — コーンシロップやトランス脂肪酸、保存料その他の人工添加物が含まれていてはならない。製品には、一回分用量あたりの CBDTHC の量を明記したラベルが貼ってあること。CBDTHC の比率は、その製品に実際に含まれるそれぞれの含有量を示しているわけではないことを忘れずに。

単一分子と全草

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whole plant vs. synethic cbd

CBD は間もなく、単一分子の医薬品となる。GW 製薬が開発した、ほぼ純粋な CBD である抗けいれん薬、エピディオレックスが FDA に承認されれば [訳注:この記事が書かれた時点では未承認だったが、その後 2018年に承認された]、カンナビジオールは、単一分子の THC(マリノール)と並んで合法的な処方薬となる。だが大麻草そのものは、連邦法では当分の間は非合法のままだろう。なんとも奇妙ではないか。

Project CBD は、単一分子としての CBD と、医療効果のある活性成分を何百種類も含む高 CBD の大麻草とは別物であると考えている。合成されたものであろうと、ヘンプから抽出され、徹底的に精製されたものであろうと、「純粋な CBD」を含む製品には、医療効果のあるテルペンや、大麻草に含まれるマイナー・カンナビノイドが欠けている。これらの化合物は、CBDTHC と相互に作用して、科学者が「アントラージュ効果」あるいは「アンサンブル効果」と呼ぶものを生み、大麻草全草の医療効果は、一つ一つの成分が持つ効果を足し合わせたよりもさらに大きくなるのである。

単一分子 CBD には効果がないと言っているわけではない — 純粋な CBD が奏効するケースもあるだろう。だが、全草から作られる CBD 製品は、CBD アイソレートよりも遥かに治療域が広い。このことは、単一分子の CBD が効果を発揮するためには全草から作られた高 CBD オイルと比べてはるかに高用量を必要とすることを明らかにした 2015年のイスラエルでの研究が明確に示している。それだけではなく、もしも用量が少しでも多すぎたり少なすぎたりすれば、単一分子 CBD は疼痛や炎症にはほとんど効果がない。他方、全草から作られた高 CBD オイルは、ずっと少量で効果があり、効果のある用量の幅も広い。また、他の薬との薬物相互作用による問題が起きる危険性も、単一分子 CBD を高用量で摂取した場合のほうが高い。イスラエルの研究者は、「全草抽出物には相乗効果が見られ、その結果、活性成分の必要摂取量が少なく、したがって副作用も少ない」と結論づけている。他の科学者たちからも、同様の論文が発表されている。

CBD がパワフルな成分であることはたしかだが、大麻草全草はそれ以上にパワフルなのだ。


Martin A. Lee は Project CBD のディレクターであり、『Smoke Signals: A Social History of Marijuana – Medical, Recreational and Scientific』『Acid Dreams: The Complete Social History of LSD – the CIA, the Sixties and Beyond』を含む数冊の著書がある。


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